みすず書房

史上最悪のインフルエンザ【新装版】

忘れられたパンデミック

AMERICA’S FORGOTTEN PANDEMIC

判型 A5判
頁数 496頁
定価 4,840円 (本体:4,400円)
ISBN 978-4-622-07452-6
Cコード C0047
発行日 2009年1月7日
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史上最悪のインフルエンザ【新装版】

少なく見積もっても2500万人以上の死者を出したといわれる、1918-1919年のインフルエンザ(通称「スペインかぜ」)。本書は社会・政治・医学史にまたがるこの史上最大規模の疫禍の全貌を明らかにした感染症学・疫病史研究の必読書。この新装版には訳者による最新の解説「パンデミック・インフルエンザ研究の進歩と新たな憂い」が付され、発生が近いといわれる新型インフルエンザ、およびそのパンデミック(汎世界的流行)対策の現状に引きつけた史実の読解が促されている。
著者クロスビーは本書で、世界情勢と流行拡大の関連のようなマクロな事象から一兵卒の病床の様子まで、1918年のパンデミックの記録を丹念に掘り起こしている。特に大都市での流行が「グランギニョール的カオス」に至る様は、読者のこの病への畏怖を新たにさせずにはいられない。
しかしインフルエンザの真の恐ろしさは、罹患者数の莫大さによって実はけっして少なくない死者数が覆い隠され、「みんなが罹り誰も死なない」病として軽んじられることにあると著者は警告する。大震災と同じく歴史上数十年の間隔を置いて繰り返しているパンデミックに備え、改めて史上最悪のインフルエンザの記憶をたどり、社会あるいは個人レベルの危機管理の問題点を洗い直すうえで必備の一冊だ。

[初版2004年1月16日発行]

目次

日本語版への序文
新版への序

第1部 スパニッシュ・インフルエンザ序論
第1章 大いなる影
  キャンプ・デーヴンス
  医療部隊の大敗北

第2部 スパニッシュ・インフルエンザ第一波——1918年春・夏
第2章 インフルエンザウイルスの進撃
  戦時下、ひそかに迫る危機
  夏・ヨーロッパ──軍隊、一般市民へ
  流行第二波への助走
第3章 3か所同時感染爆発──アフリカ、ヨーロッパ、そしてアメリカ

第3部 第二波および第三波
第4章 注目しはじめたアメリカ
  騒然とした世相の中、看過された流行
  脅威の顕在化
  組織的対策の始まり
第5章 スパニッシュ・インフルエンザ、合衆国全土を席巻
  運び屋となった兵士たち
  流行、国土全域へ
  都市問題と流行の絡み合い
第6章 フィラデルフィア
  嵐の前の静けさ
戦争と流行が織りなす狂気模様
  公共サービスの混乱
  市民の積極的協力と組織化
  埋葬が追いつかない
  流行の収束と閉鎖命令の解除
  統計
第7章 サンフランシスコ
  パンデミック、戦争に沸くシスコへ
  ハスラーと市保険委員会
  サンフランシスコの闘い
  ワクチンとマスク
  マスク着用条令
  マスク着用解除と再流行
  反マスク同盟
  「死の臭いのする喜劇」の幕引き
  アメリカの都市社会とパンデミックについての一考察
第8章 洋上のインフルエンザ──フランス航路
  船員とインフルエンザ
  兵員輸送船
  リヴァイアサン号
  ウォーレス二等兵の場合
  ふたたびリヴァイアサン号の地獄
  上陸後も続く試練
  海葬
  工夫と改善
  統計
第9章 米軍ヨーロッパ遠征軍とインフルエンザ
  ロシア進駐陸軍第339歩兵部隊
  スパニッシュ・インフルエンザ、北ロシアへ
  西部戦線とフランス駐留部隊
  第88師団での流行
  前線を挟んで
  戦場のパンデミック
  ホールデン少尉の場合
第10章 パリ講和会議とインフルエンザ
  ウッドロウ・ウィルソン
  民主党の敗北
  アメリカ和平交渉使節団と大統領補佐官ハウス
  ハウスの病
  冬のパリ、流行第三波
  会議の行く手に広がる影
  四巨頭会談
  対立の激化とウィルソンの発病
  ウィルソンの敗北
  ウィルソンの異変について

第4部 測定、研究、結論、そして混乱
第11章 統計、定義、憶測
  パンデミックを測る
  悪性化の謎
  ショープの説とグッドパスチャーらの所見
  免疫学者バーネットの考察
  いまだに謎は残る
  付録
第12章 サモアとアラスカ
  環境、それとも遺伝?
  太平洋の島々とスパニッシュ・インフルエンザ
  サモア
  西サモアとアメリカン・サモア
  アラスカ
  勝敗の分かれ目
  リーダーシップについて
  州知事リッグスの奮闘
  第三波終息──忘れられたアラスカ
第13章 研究、フラストレーション、ウイルスの分離
  原因究明の試み
  病原体の第一候補、ファイファー桿菌
  ファイファー桿菌説の限界
  第二、第三の候補
  ろ過性微生物説の登場
  イヌ・ジステンパー研究
  WS株の分離、そしてウイルス説の確立へ
第14章 1918年のインフルエンザのゆくえ
  動物のインフルエンザ
  コーエン、ショープのブタ・インフルエンザ研究
  ショープの仮説とその今日的意義
  血中抗体の意味するもの
  1911年アラスカ、テラー・ミッション

第5部 結び
第11章 人の記憶というもの──その奇妙さについて
  忘れられたパンデミック
  文献中のスパニッシュ・インフルエンザ
  トマス・ウルフとキャサリン・アン・ポーター
  忘却の理由
  忘れられないパンデミック

訳注
訳者あとがき
訳者解説「パンデミック・インフルエンザ研究の進歩と新たな憂い」
参考文献
索引

書評情報

曽我豪(編集委員)
朝日新聞「日曜に想う」2020年2月23日(日)
原田亮介(論説委員長)
日本経済新聞オピニオン面「核心」2020年3月2日(月)
山田孝男(特別編集委員)
毎日新聞「風知草」2020年3月2日(日)