みすず書房

わらの犬

地球に君臨する人間

STRAW DOGS

判型 四六判
頁数 264頁
定価 3,960円 (本体:3,600円)
ISBN 978-4-622-07490-8
Cコード C1010
発行日 2009年10月22日
備考 現在品切
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わらの犬

古代中国の祭祀では、わらの犬を捧げ物にし、祭りが済んで用がなくなると、踏みつけられて捨てられた。「天地自然は非情であって、あらゆるものをわらの犬のようにあつかう」(老子)。人間も、地球の平穏を乱せば容赦なく捨てられるだろう。地球にとって疫病になりはてた人類が滅びれば、この惑星はふたたび生き返る。

科学技術の進歩によって、人間の不死が実現するという信仰は、先進資本主義国で生き延びた。人間が「進歩」信仰に取りつかれるようになって久しい。しかも「ヒューマニズム」という人間中心の考え方や、「道徳」という人間に特有の価値を、私たちはもやは疑うこともない。
ジョン・グレイは、現代文明がキリスト教と科学技術の発展とを両輪にして疾駆してきた筋道を、糸をほぐすようにたどる。一神教が誕生して「進歩」や「歴史」の観念が生まれる前は、「時間」の感覚がどのように違ったか。もし私たちが暗に了解する終末論から解放されたら、どんな世界が見えてくるか。
挑戦的な内容は、刊行と同時に論争を巻き起こし、「賛否を問わず避けて通れない」と評され、『タイムズ』ほか11紙が「今年の一冊」にあげた。未来への方策を真摯に探る衝撃の書である。

目次

謝辞
ペーパーバック版序

1 人間
1 科学か、ヒューマニズムか/2 意志的進化の蜃気楼/3 人間がいっぱい/4 人類はなぜ技術を持てあますのか/5 グリーン・ヒューマニズム/6 反原理主義 宗教と科学/7 科学の不合理な起源/8 人間中心主義を矯正する科学/9 真実のもたらすもの/10 啓蒙家パスカル/11 人間主義対自然主義/12 わらの犬
2 欺瞞
1 仮面舞踏会/2 ショーペンハウアーの難題/3 ニーチェの「楽天主義」/4 ハイデガーのヒューマニズム/5 ライオンとの対話/6 ポストモダニズム/7 動物の無心/8 プラトンとアルファベット/9 個人崇拝批判/10 意識の貧困/11 ロード・ジムの行動/12 仮想の自己/13 無名氏/14 究極の夢/15 実験
3 道徳の害
1 磁器と命の値段/2 道徳の迷信/3 人命軽視/4 良心/5 悲劇の死/6 正義と流行/7 育ちのいいイギリス人の誰もが知っていること/8 精神分析と時の運/9 道徳は媚薬/10 分別を徳とする弱み/11 道徳の創始者ソクラテス/12 道徳の不徳/13 選択信仰/14 動物の美質
4 救われざるもの
1 救済者/2 大審問官とトビウオ/3 多神教礼賛/4 キリスト教が行き着く果ての無神論/5 ホメロスのハゲタカ/6 死すべき運命/7 死にゆく動物/8 クリシュナムルティの重荷/9 グルジエフの「ワーク」とスタニスラフスキーの「メソッド」/10 『飛行場』/11 ニコライ・フョドロフ、ボルシェヴィズムと科学技術による不死の探究/12 人工天国/13 グノーシス派とサイバーノート/14 ファントマットの奥/15 孤独の鏡/16 人類の彼岸
5 無進歩
1 ド・クウィンシーの歯痛/2 時の環/3 歴史の皮肉/4 かつての中流のつましい貧困/5 平等の終わり/6 陽の当たる十億のバルコニー/7 二十世紀の反資本主義、ファランステールと、中世の自由精神兄弟会/8 メスメリズムと新経済/9 意識について/10 石の記憶/11 近代化神話/12 アルカイダ/13 日本の教訓/14 前衛ロシア/15 西欧の価値観/16 未来の戦争/17 戦争ごっこ/18 もうひとつのユートピア/19 人類以後の進化/20 機械の魂
6 ありのまま
1 行動の慰め/2 シジフォスの進歩/3 運命と戯れる/4 回帰/5 ただ見るということ

訳者あとがき
参考文献
索引

書評情報

粉川哲夫(東京経済大教授)
東京新聞2009年11月29日(日)

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