みすず書房

独学の博物学者ウォーレスが、探検中のマレー諸島からダーウィンにあてて最初の手紙を書いたのは、リンネ協会でのダーウィン=ウォーレス自然選択説連名発表よりも二年弱さかのぼる。この探検家=標本採集業時代のウォーレスについては、前著『種の起原をもとめて』(1997年、第51回毎日出版文化賞受賞)で種の起原の理論への到達過程が究明されるとともに、人間的な魅力にあふれるウォーレス像が再現された。
ウォーレスからダーウィンへ、ダーウィンからウォーレスへ。年長のダーウィンが先に他界するまで、約150通の手紙を通して、二人は互いの進化論の完成のために真摯な議論をつづけた。それは、ウォーレスの生涯の遍歴のなかでは生物学者時代であり、そして歴史を振り返ってみれば、進化論の時代——ダーウィンの死の直後に到来する遺伝学の時代に先立つ「進化論の時代」だった。
四半世紀にわたった二人の文通における進化理論の展開が、前著の続編として書かれた本書の主題である。主要な書簡を丹念に訳出し、詳細な注をそえ、編年で14章に構成する。各章のはじめに解説がおかれ、章のテーマがそれぞれ、「進化論の時代」のうねりのひとつひとつをあらわす。ウォーレスを鏡にダーウィン進化論を検討する、著者のウォーレス研究の集大成。

目次

プロローグ  ダーウィンとウォーレスと「進化論の時代」
第1章 文通の開始
第2章 自然選択説連名発表前後
第3章 『種の起原』の刊行
第4章 「人類論文」をめぐって
第5章 「自然選択」か「最適者生存」か
第6章 擬態から色彩論へ
第7章 「法則による創造」
第8章 不毛な論争「不稔性の進化」
第9章 性選択と第二次性徴の遺伝
第10章 『マレー諸島』と心霊研究宣言
第11章 『人間の由来と性選択』とその書評
第12章 マイヴァートをめぐって
第13章 「趣味の植物研究」と『動物の地理的分布』
第14章 最後の論争——『島の生物』と交わらない二人の道
エピローグ  「ひとつの時代の終わり」

あとがき
参考文献
人名解説・人名索引

編集者からひとこと

前著『種の起原をもとめて——ウォーレスの「マレー諸島」探検』(1997、毎日出版文化賞)は現在、オンデマンド版で朝日新聞社から刊行されています。
その前著の執筆中から構想され下準備されてきた続編の刊行です。「自分をウォーレスと比較するのはおこがましいが、前作と本書との関係は、ウォーレスの『マレー諸島』と『動物の地理的分布』との関係に対応するといっていいのかもしれない。」(「あとがき」)

書評情報

朝日新聞
2010年6月13日(日)
横山輝雄
毎日新聞2011年2月6日(日)
池内了(宇宙物理学者)
読売新聞「この3冊」2010年12月26日(日)

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