みすず書房

「私のまわりにいる大人たちはあまり子ども向けの本を読んでいないが、とりわけムーミンは、名前や絵は知っているけれどまず読まない。登場する動物や虫たちの奇抜でかわいい絵を見て、これは幼児だけを相手にした物語だと判断するからだろう。第1巻、第2巻を読んでもその第一印象は変わらないかもしれない。しかし3巻目まで進むと、こんどは全部読まずにはいられなくなる。つまり大人の本でもあることに気がついて驚くのだ」
「ナルニア国ものがたり」「ゲド戦記」「ムーミン」「クマのプーさん」「家なき子」「アンネの日記」ほか古今のロングセラーをとりあげ、読み過ごしがちな建築的フレームと細部を浮き彫りに。ファンタジーの街、児童文学の森に分け入る大人のための読書案内。

目次

I 物語の地誌
衣裳箪笥の奥  C・S・ルイス「ナルニア国ものがたり」
いつか訪れた庭園  H・G・ウェルズ「塀にある扉」
未開の図書館  エリナー・ファージョン「ムギと王さま」
家までの長い道  エクトール・マロー「家なき子」
崇高なる山  ヨハンナ・スピリ「ハイジ」
屋根裏  バーネット「小公女」
塔の家  「グリム童話集」
地下室  E・A・ポオ「アッシャー家の崩壊」
火山の下  ジュール・ヴェルヌ「地底の冒険」
空き家  日影丈吉「ひこばえ」
遠く、自由な場所  蒲松齢「聊斎志異」

II 住まいの辺境
不安定な家  シャーリイ・ジャクスン「山荘綺談」
ある隠れ家の記録  アンネ・フランク「アンネの日記」
内部のない建築  安部公房「箱男」
天然ピロティ  イタロ・カルヴィーノ「木のぼり男爵」
自分だけの家  スティーヴン・キング「ミザリー」
この先、記憶の町?  滝田ゆう「泥鰌庵閑話」
獄中獄外  吉村昭「破獄」
ライ麦畑のキャッチャー  W・P・キンセラ「シューレス・ジョー」

III 追憶の文体
「ひとつづきの絵」の現在  石井桃子「幼ものがたり」
マナーハウス千年紀  ルーシー・M・ボストン「グリーン・ノウ物語」
透明あるいは闇  フィリパ・ピアス「トムは真夜中の庭で」
ファンタジーのパン種  トーベ・ヤンソン「ムーミン童話全集」
魔法の森  A・A・ミルン「クマのプーさん」
領土の測量学  アーシュラ・K・ル=グウィン「ゲド戦記」
ドレスデンの心臓  エーリヒ・ケストナー「エーミールと探偵たち」
村までの距離  I・B・シンガー「ワルシャワで大人になっていく少年の物語」
動物劇場  ケネス・グレーアム「たのしい川べ」
彼方の空  坪田譲治「風の中の子供」
濁りのない絵  童画家・初山滋の仕事
帰れない風景  絵本作家・八島太郎の軌跡
不可解が語りかける  モーリス・センダックの絵本三部作

あとがき

書評情報

毎日新聞
2011年7月3日(日)
渡邊十絲子(詩人)
週刊新潮2011年7月14日特大号
信濃毎日新聞
2011年7月17日(日)
婦人公論
2011年9月22日号
文學界(インタヴュー)
2011年11月号