みすず書房

〈私はかねてから診察室での「小精神療法」と称して、健康保険制度下にある日本の精神科の診察室で、精神科医である限り誰でもおこなえる普通の「面接」の精度を高めることを求めてきた。精神分析のみならず森田療法も行動療法も原理は換骨奪胎して使う。一方では生物学的な進歩を薬物療法としてできるだけ受容し、他方医師患者関係を重視し、基本的には客を座敷で遇する気持ちで、悩める存在としての病人への敬意と礼儀を失わず、しかし万人平等の健康保険の精神を尊重し、一人15分程度を超えない時間配分とする。早急な治癒はねらわず、経過が長くなろうとも街角でいつまでも付き合う。薬を呈する手はそういう医師の手であることを理想とする。面接は一種のドラマと見立て、できるだけ起承転結をつける〉

「境界例」「境界パーソナリティ障害」とは何か。このわかりづらく厄介な病像の概念の変遷と研究の昨今を、自身の50年にわたる臨床経験から描く。70年代、80年代の論文を主に書き下ろしを加えた8篇。

目次

まえがき
境界例概念についての総説(1981)
分裂病と神経症との境界例——三例の症例報告——(1971)
境界例の精神療法の試み(1975)
否定妄想について——若い婦人の一例——(須藤敏浩氏との共著、1976)
不安・ゆううつ・無気力——正常と異常の境目に焦点をあてて——(1983)
再びスプリッティングについて(1988)
自殺の臨床的研究——自殺予防のために——(1978)
境界パーソナリティ障害(DSM)研究の昨今——文献紹介を中心に——(2012)
解題

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