みすず書房

〈ボイスが、この日本に足跡を残してしまうというのはどうだろう。ボイスの足型を石膏で型取りして石にうつす《ボイス足跡を印す》というアイディアが浮かんだのである。……出発前に酒井氏に話すと「もし取れたら日本の珍宝だ」と言ってくれた。その時から酒井氏はこのプロジェクトを事前に知る唯一の生き証人となったのである〉(「プロローグ」より)

前衛芸術家ヨーゼフ・ボイス(1921-86)の思想と芸術につよい関心をいだいた美術家の若江漢字が、文化庁派遣によるドイツ滞在を利用してボイスの足型を石膏で取ったエピソードが本書の中核である。このほか、ドイツ各地の作品探訪をもとに執筆したボイス論、84年の来日滞在記などをまとめ第1部とした。第2部には、美術評論家の酒井忠康による若江作品の解説やエッセー、対談などを収録した。
“社会彫刻”という理念を掲げ、ヨーロッパはもとより日本においてもすでに神話的存在であったボイスに果敢に挑んだ若江の手記「ボイス・ノート」は、その真髄に迫る第一級の記録である。また若江のよき理解者=伴走者として、創造の現場に立ち会ってきた酒井の文章からは、旧知の作家との心温まる交感が伝わってくる。
没後25年を経てなお現代に示唆を与え続けるボイス思想をめぐり、40年にわたり心を通わせてきた二人のコラボレーション。

目次

プロローグ(若江漢字)

I ボイス・ノート
宿り木の冠
私の個展から
作品の時代と傾向について
汝の傷
ボイスからのメイル・アート
八日間の日本
ボイスとの出会い
アトリエ訪問
鹿の記念碑
ボイスの足型を取る
灰色の聖骸布
ピアノに関するノート
社会彫刻の意味するもの——S氏への手紙
社会改革・芸術・ボイス
オメガ点から
ハニー・ポンプ

II ボイスのことから話をしよう
地霊の声
W氏への手紙
三人の「箱男」
ボイスのことから話をしよう
繋がってゆく関係——手紙の形式をかりて
作品、そして「近代」をめぐる対話

エピローグ(酒井忠康)

初出一覧・図版クレジット

書評情報

神奈川新聞
2013年6月28日(金)
松撝未来
美術手帖2013年8月号
浅沼敬子(北大准教授・芸術学)
北海道新聞2013年8月29日(木)

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