心理療法/カウンセリング 30の心得
判型 | 四六判 |
---|---|
頁数 | 240頁 |
定価 | 2,420円 (本体:2,200円) |
ISBN | 978-4-622-07702-2 |
Cコード | C1011 |
発行日 | 2012年7月20日 |
備考 | 現在品切 |
判型 | 四六判 |
---|---|
頁数 | 240頁 |
定価 | 2,420円 (本体:2,200円) |
ISBN | 978-4-622-07702-2 |
Cコード | C1011 |
発行日 | 2012年7月20日 |
備考 | 現在品切 |
〈心理療法の心得、といっても私は心理療法の原理原則のようなものを考えているわけではない。これらは「必ず守らなくてはならないもの」というわけではない。あくまでもガイドライン、ある種の指針である。またこれらの心得は心理療法における「お作法」のようなものでもない。「お作法」は半ば形骸化した「慣例」ないしは「きまりごと」のようなものである。(…)それは先生やスーパーバイザーから教え込まれてはいても、面接者はその根拠を十分に示すことができず、また来談者の利益を最大限に優先した上で唱えられているものとも限らない。
それに比べて私が言う心得とは、まさに心理面接者がその治療を効果的なものとするために持つことが期待される、一種の思考回路のようなものである。その思考回路の詳細は、各心得ごとに数ページにわたって示してあるので、その意味が通じるならば、それを根拠として用いていただきたい〉
(「はじめに」より)
自らを「気弱な精神科医」という著者が、長年、PTSDや解離性障害、人格障害、社交恐怖症などの患者さんの治療に取り組むなかで、繰り返し抱いてきた迷いや疑問。その豊富な経験知が導き出したユニークな心得の数々が一冊になった。心理面接者の“心のストレッチ”となること請け合いのハンドブック。
はじめに
心得1 「自分が目の前の来談者の立場なら何を望むか」から出発する
心得2 治療原則とは結局は倫理原則である
心得3 来る人は拒まず、去る人は追わず
心得4 来談者の人生を変えようなどとは考えない
心得5 面接者は来談者によって自分が変わる用意がなくてはならない
心得6 来談者の問題解決のニーズを探る
心得7 心理療法には精神分析も認知療法も同時に起きている
心得8 面接者は防衛的になる分だけ力を奪われる
心得9 心に常に天秤を思い描くべし(マインドフルネス)
心得10 治療の最終目標の一つは、来談者が「自分はこれでいいのだ」と思えることである
心得11 面接者は人により態度を変える人間であってはならない
(心得11-2 来談者が読んでもいい診療録を作成する)
心得12 「甘えているのではないか」という考えをいったん排除する
心得13 面接者は自らの「邪念」に目配りせよ
心得14 面接者は自らの「上から目線」を戒める
心得15 面接者は先入観なく話を聞くことを心がけよ
心得16 来談者に贔屓目に話を聞くことが中立的である
心得17 面接者は治療空間を楽しいものとすることを心がけよ
心得18 面接者は来談者のポジティブな面の評価を忘れない
心得19 面接者は常に直観とは反対を考えよ
心得20 アドバイスは「適正価格」で行う
心得21 自己開示は「適正価格」で行う
心得22 来談者はみな「理解される」ことを希求している
心得23 仮の治療目標を「来談者の孤独感を和らげること」と設定せよ
心得24 面接者は「怒りの芽」をシグナルとして用いる
心得25 人はみな「かなりおかしい」部分を持つことを前提とする
心得26 直面化を促すのは、不可知的な「現実」である
心得27 「禁欲規則」はまず面接者が自分に課すべし
心得28 「外傷モデル」を常に頭のどこかにおくべし
心得29 アドバイスや助言は簡単には汎化されない
心得30 治療構造は常に「柔構造」である
[付録]
選外1 セッション中にノートを取ってもかまわない
選外2 来談者を叱りつけない(あたりまえだ)
選外3 「冗談」(自由連想にではなく)にこそ無意識が表れることをわきまえよ
選外4 セラピストとしての生きがいを持ってもいい
あとがき
本書の題として「心理療法/カウンセリング 30の心得」と決めた時、多少なりとも躊躇はあった。こんな題名の本を書店で見つけたら、自分だったら手を伸ばすだろうか? 何か安易なハウツーもののような気がして、敬遠するのではないか?(しかしたまたま手にとってパラパラとめくってみると、驚いたことに……私が普段思っていたことが書かれている。アタリマエだ。)
心得、ではなく「ヒント」にしてはどうかとも考えた。しかし本書の内容はやはりヒント、ではない。むしろ「〜と考えてはどうか?」という一種のアドバイス、心にとどめて欲しい提言なのである。そこで結局「心得」となった。
30個書き並べたこれらの心得のすべてを、読者に同意して理解していただくわけには行かないだろう。特に精神分析系の先生方には怒られるような内容ばかりかもしれない。しかし中には「これはアリだな」と思ってもらえるものもあるのではないかと期待する。そしてその中で心に残るものが、心理面接をしていて迷いが生じたときにふと浮かんできて、それが少しでも助けになれば、と思う。
これらの30の心得の多くは、私が心理面接を行っているうちに次第に形を成してきたものである。しかし先輩の心理士や医師から聞いたことも含まれる。先達の著書からヒントを得たものも多い。その中には臨床心理士の卵である学生たちに日ごろ語っているものもある。そして私の頭の中ではすべて当然のことである。
たとえば「アドバイスは適正価格で(心得20)」を取ってみよう。アドバイスは安売りしても、売り惜しみをしてもよろしくない。どう考えても当たり前のことだ。しかし私たちは当たり前のことを日常生活で忘れがちである。「こんなことをしては怒られるのではないか?」「これを主張したら恥をかくのではないか?」そのようなときに原点に立ち返るために、これらのあたりまえな心得にも意味があるのである。ではその原点とは何か? それは心理療法やカウンセリングが来談者のためにある、という素朴な事実なのである。
私たちは様々なお作法やスーパーバイザーたちの言葉を耳にするうちに、この素朴な事実を忘れてしまうことがある。それらは「患者にはアドバイスをしてはならない」であったり、逆に「カウンセラーがアドバイスをしないで、誰がするんだ!」かもしれない。(この後者は、実はあまり聞いたことがない。しかしその代わり現実の世界では一部のカウンセラーによりガンガン行われている可能性がある。)するとつい考えてしまう。「アドバイスをするのはお作法に反するのだろうか?」あるいは「そんなことをしたらバイザーに叱られてしまうのではないか?」しかし大切なのは、今アドバイスを与えることが患者の役に立つのか、という一点であり、それを第一に問うべきなのだ。そしてそのことを様々な臨床場面で思い出すための30の心得、なのである。
最後にどうしてみすず書房をこの本の出版元として選んだのか? それは私たち精神医療に関する仕事をしているものにとって、みすず書房は老舗であり、憧れであるからだ。書店で心に関する興味深い題名の専門書を手に取ると、そのハードカバーを包むシンプルな味わいのあるジャケットの下のほうにはいつもひらがなの「みすず書房」があった。みすず書房から出る本は由緒正しい立派な本である、という一種の刷り込みが私たち心理関係の人間にはあるのである。今回縁があり、本書をその「みすず書房」から出版できたことをとてもうれしく思っている。 (2012年7月)
岡野憲一郎
Copyright Okano Kenichiro 2012