みすず書房

双極性障害の時代

マニーからバイポーラーへ

MANIA

判型 A5判 タテ210mm×ヨコ148mm
頁数 376頁
定価 4,400円 (本体:4,000円)
ISBN 978-4-622-07720-6
Cコード C1047
発行日 2012年11月20日
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双極性障害の時代

大きな反響を得た前著『抗うつ薬の功罪』につづく渾身の告発であると同時に、第一級の精神医学史研究たりえている重要作。
双極性障害──かつて「躁うつ病」と呼ばれ、けっして多くはなかった障害──が、昨今はなぜか身近な病気になりつつある。うつ病患者や小児も巻き込んで、すでに米国では深刻な医療ハザードを生んでいるこの状況の背景には、「気分安定薬」の市場拡大を狙う製薬産業のマーケティングと、精神医療の視線自体の変質が……。著者は双極性障害をとりまく事実と虚構、そして、「双極性(バイポーラー)」概念の濫用が広がる最新の様相を明らかにする。
過去には、複雑な気分障害の構造を解きほぐそうとするさまざまなアプローチや概念が試され、それらの盛衰の末に、かりそめでない理解の土台が形成されつつあった。そうした先学の蓄積さえも歪曲しながら、精神医学と精神薬理業界が「科学的根拠」をめぐる倒錯を深めている現状を、著者は歴史の検証を通して説得的に示している。
気分障害の診断枠が薬に合わせて変形され、その診断枠によって薬が正当化されるという、今日のマッチポンプ的構造の危うさに、あらためて衝撃を受ける。「自己」についての私たちの認識までが、薬の特許のサイクルに同期して塗り替えられる時代がきていると、ヒーリーは警告している。


目次

推薦の辞(チャールズ・E・ローゼンバーグ)
謝辞
はじめに──躁病(マニー)にまつわる数々の物語

第1章 狂乱と昏迷
ヒポクラテスの「マニア」
診断から治療へ
商業と科学
時を超えて

第2章 脳をめぐって
新しい脳
新しい脳とその「神経」
精神病院(アサイラム)における脳
狂気と法律

第3章 循環性の狂気
パリにおける闘争
カール・カールバウムと循環気質(シクロチミア)
エミール・クレペリンと躁うつ病
過去を見る窓

第4章 狂気の石
リチウムの歴史──黎明期
新しい医学
精神薬理学の潮流に反して
傍流のリチウム
モーエンス・スコウとリチウムの発見
リチウム戦争
  リチウム戦争の余波/リチウム戦争の皮肉な結末
情報還元主義

第5章 躁うつ病の翳り
長い戦い──ウェルニッケ対クレペリン
双極性障害の誕生
「双極性(バイポーラー)」への変化
類循環精神病
名は消えゆくとも、そのなせる業は生き続ける

第6章 米国におけるブランド化
ジョルジュ・カラス──発見者にして世捨て人
大熊輝雄──NIH(「うちの発明ではありません」)の時代に
ロバート・ポスト──キンドリング‐クエンチング仮説
気分安定薬前史
上げ潮
あなたのお医者さんは知らないかもしれません

第7章 最新の熱狂(マニア)
学界による仲介
双極性(バイポーラー)の子どもたち?
医学界最大の溝

第8章 人間の魂のエンジニア
埋もれたニーズ──精神医学市場の築き方
科学のうわべ
  臨床医をガイドする/エビデンスをつくりだす/世界の埋もれたニーズ
傷ついた治療者
笛吹き男

結び 過去と未来の実験室

監訳者あとがき
原注
索引

書評情報

三脇康生(精神医学・医療人類学)
図書新聞2013年3月30日
野口正行(岡山県精神保健福祉センター)
こころと文化2014年9月

関連リンク

江口重幸「ヒーリーと『双極性障害の時代』」(「監訳者あとがき」より抜粋)

「本書に刻まれているのは、ヒーリー以外の誰にも書くことができない、生身の研究者や精神科医や患者・家族が織りなす、感情病と双極性障害をめぐる、精神薬理学と精神医学をめぐる、さらには科学と企業と医療倫理をめぐる現在史なのである」

ヒーリー・インタビュー「双極性障害とそのバイオミソロジー」

月刊「みすず」2013年3月号に掲載されたデイヴィッド・ヒーリー「双極性障害とそのバイオミソロジー——バイオバブルが人々を治療に駆り立てる時代」(聞き手=クリストファー・レーン)の全文をお読みになれます