みすず書房

サイード音楽評論 1

MUSIC AT THE LIMITS

判型 四六判
頁数 320頁
定価 3,520円 (本体:3,200円)
ISBN 978-4-622-07724-4
Cコード C0010
発行日 2012年11月22日
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サイード音楽評論 1

40歳代前半で発表した『オリエンタリズム』(1978)で世界に衝撃を与えて以降、20世紀を代表する思想家の一人に数えられるE・サイード。彼がかつてシェーンベルクの愛弟子E・シュトイアーマンに師事したピアニストで、西洋クラシック音楽に造詣が深いことはよく知られており、音楽愛好家にとっては『音楽のエラボレーション』『バレンボイム/サイード 音楽と社会』の著者としてすでに馴染み深いだろう。しかしこの分野におけるサイードの仕事の中心は演奏評から本格論考までを含む新聞・雑誌への寄稿であり、これは日本ではもとより本国でも、生前には単行本として蓄積されることがなかった。本書は1983年から20年にわたって厚い信頼を集めたその音楽評論を初めて集成したものである。
作曲者の意図、演奏者の解釈行為、聴き手の解釈行為、その基盤となる歴史と社会環境と政治。それらをふまえたサイードの評論は音楽学の成果を取り込みつつも微視的になることがない。また逆に文化論に拡張して音楽そのものから離れてしまうこともない。現代の音楽をめぐる状況については一貫した主張がある。そのぶん賛否両論を呼ぶだろうが、一人の音楽評論家に望みうる、あらかたの魅力をサイードはそなえているといえるのではないだろうか。希代の思想家の音楽への愛情に満ちた、きわめて水準の高い評論群である。

目次

序文  ダニエル・バレンボイム 
まえがき  マリアム・C・サイード 
謝辞

第1部 一九八〇年代
1 音楽そのもの——グレン・グールドの対位法的な洞察力
2 奏でられたものの追想——ピアノ芸術の現存性と記憶
3 音楽祭は威風堂々
4 リヒャルト・シュトラウスを考える
5 『ヴァルキューレ』『アイーダ』『(エックス)』
6 音楽とフェミニズム
7 大衆向けの巨匠——ジョーゼフ・ホロウィッツ著『トスカニーニを理解する』
8 奏者にとっての中年期
9 ウィーンフィルとポリーニ——ベートーヴェンの交響曲とピアノ協奏曲の全曲演奏会
10 『セビリャの理髪師』『ドン・ジョヴァンニ』
11 メトロポリタン美術館でグールドを聴く
12 ヘンデルのオペラ『ジュリオ・チェザーレ』
13 バルトーク『青ひげ公の城』とシェーンベルク『期待』
14 チェリビダッケという例外体験
15 ピーター・セラーズのモーツァルト
16 カーネギーホールでアンドラーシュ・シフを聴く

第2部 一九九〇年代
17 リヒャルト・シュトラウス
18 ヴァーグナーとメトロポリタン歌劇場の『指輪』
19 オペラ制作——『ばらの騎士』『死者の家から』『ファウスト博士』
20 スタイルの有無——『エレクトラ』『セミラーミデ』『カーチャ・カバノヴァー』
21 アルフレート・ブレンデル著『音楽のなかの言葉』
22 『死の都』『フィデリオ』『クリングホファーの死』
23 不確かなスタイル——『ヴェルサイユの幽霊』『軍人たち』
24 追悼の音楽

書評情報

中村晃也(音楽理論)
レコード芸術2013年3月号
小宮正安(横浜国立大学准教授、ドイツ文学・ヨーロッパ文化史専攻)
週刊読書人2013年1月25日(金)
宮沢昭男(音楽評論家)
しんぶん赤旗2013年2月17日
東京新聞
2013年3月3日(日)

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