みすず書房

「今晩眠れなかったら明日おいで、眠れたらせっかくの眠りがもったいないから明後日でもよいけれど」
「これは少量だから、効いたら君の病気は軽いんだ。効き足りなければ少量だからまだまだ増やせる。他に似た働きの薬もたくさんある」
「病気ですから治療します。統合失調症の可能性ですか? そうならないように努力します」
「治療して何か残るか、みます」
私のやり方は患者と話し合いながら共同の実験を積み重ねてゆくやり方です。

1966年に精神科医となって以来、統合失調症を中心に、グラフと年表を作ることの効用、絵画療法の意味、外来治療のあり方など、著者のやってきたこと、見てきたこと、考えたことを懇切にしるし、さらに日本の精神医学史を追跡しながら、今後を展望する。これからの精神医学と医療にたずさわるすべての人のために。

目次

I
統合失調症の有為転変
統合失調症の経過における治療者・患者間の最小限の情報交換
統合失調症の経過研究の間に考えたこと
回復過程論から、いわゆる精神的病理症状をみ直す

II
国内外の精神医学の動向一端
戦後日本精神医学史(1960-2010)粗稿
私の世代以後の精神医学の課題

III
絵画療法と私の今
遅発性心的外傷患者への絵画療法の試み
芸術療法事始めのころ
非言語的アプローチの活かし方

IV
私が面接で心がけてきたこと——精神科臨床と臨床心理学をめぐる考察
私の外来治療
精神科医の精神健康の治療的意義
永田俊彦の統合失調症経過研究をめぐって
病跡学の今後と私
ウイルス持続感染が起こすいたずら
回復の論理の精神病理学がありうるならば

V
精神分析と人間と——土居健郎先生に聞く(座談会  土居健郎・中井久夫・神田橋條治)

あとがき
初出一覧

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