みすず書房

「自由は貴重だとよく云われる。しかし、自由であることの恐しさについては語られた言葉は少ない。口にする者はあっても、耳を傾ける人が居ないのだ。私は自由といえばいささか大げさで顔が赧らむ思いがするが、それを怖れた男だ」
(「ルポ・兵士の報酬——第八教育隊」1962年)

故郷長崎・諫早に根をおろし、端正で強靭な文体によって独自の文学世界を紡ぎつづけた作家野呂邦暢(1937-1980)。小説にとどまらないその文業を集成する〈随筆コレクション〉(全2巻)をここに刊行する。 
第1巻にあたる本書は、初めて公の活字になった文章「ルポ・兵士の報酬——第八教育隊」(日本読書新聞〈読者の論文〉入選、1962年)ほか、1962-77年発表の210編余(うち単行本未収録作品79編)を収録。
8歳で目の当りにした長崎への原爆投下と敗戦の記憶。自衛隊での一兵卒としての体験。創作の源であった故郷の豊饒な自然への愛情と、それを傷つける者への憤り。抑えた筆致で綴られた文章から、普遍の文学を生み出した人の精髄が伝わってくる。
永遠に新しい、この稀有な作家の全貌を知る、充実の書をここに送る。解説・池内紀。

目次

 1962-1972
ルポ・兵士の報酬——第八教育隊
夕暮の緑の光
K書房主人
ボブ・ディラン!(第一集)——一枚のレコード
葦のしげみの彼方に
幸福の暈
露字新聞ヴォーリャ

 1973
「海辺の広い庭」
長崎はついてまわる——尾崎正義さんの個展によせて
春 有明の潟で
詩人の故郷
田舎の町から
一枚の写真から
「鳥たちの河口」
夏の子供たち
あなたにとって戦後とは何か?——アンケートに答える
手紙
サイズの問題
近況
鳥・干潟・河口
王国
手術台の私
列車の客

 1974
日記という鏡
「草のつるぎ」をめぐって
小説の題
死の影
蟹たちの庭
「筑紫よ、かく呼ばへば」
土との感応
小野田さんの帰還に思う
泥まみれの青年たち
「草のつるぎ」
二人の班長
冒険小説の読みすぎ
「草のつるぎ」をめぐって
野良猫のための鎮魂歌
新幹線の窓から
壜の中の手紙
歯形
石牟礼道子さんへ(上)——対論 いま何を書くべきか
石牟礼道子さんへ(下)——対論 いま何を書くべきか
フィクションによるフィクションの批評
遥かなる戦場
クロッキーブック
日本人の顔
G三五一六四三
ある夏の日
誰のために
水団の味
階級
のちのカミュをすべておさめる
有明海
家具について
N先生のこと
わが三年間

 1975
作家の眼
水と犬と
雲よ……
素顔と仮面
ある写真集
川沿いの町で
魚屋さんの声
河口をめぐる旅
ふるさとの冬の夕陽
風と自転車
岡まさはる「道ひとすじに」序文
失われた富
日本の女性
プレイボーイ
猟銃
ニヒリズムの芸術
有明海はいま……
いずこも同じ
長編にとりかかる
闇のなかの短い旅
菜の花忌
空から降って来た手紙
最後の光芒
靴屋の親子


ある漁村で
私の諫早湾

本明川のほとりで
燃えつくしたあとに

対談 原爆と表現  野呂邦暢・山田かん
死者たちの沈黙
めぐりくる夏
退化
支配人
そのときが来る
切り抜き
廃墟
「デルス・ウザーラ」
ためらい
歌謡曲
引っ越し
Rの回復
R館
モクセイ地図
戦記について
「漁船の絵」

 1976
昭和五十年初冬
列車を出るまで
単独者の悲哀
林京子さんへ——冬の光が石畳道に
途中下車
白いノート
倉屋敷川
須臾の少女
古本屋
グロテスク
「一滴の夏について」
その書店で
頭の皿
昔はひとりで……
わが有明海
解釈がはじまる
河口への道
天草北海岸
初めての歴史小説
「諫早菖蒲日記」
グラナダの水
宮大工
天草からの電話
父祖の言葉をたずねて
東京から来た少女

 古い革張椅子(1976)
坐り心地
棺桶の釘
邪馬台国
講演
酒と神様
夢見る目
私の好きな本
二日前の新聞
悪筆コンプレックス
たった一回のマラソン
カーテン
ほどほどに
古書店主
S書房主人
友達
手がかり
日記
他人の書斎
カレーライス
書出し
海を見に……
まぼろしの伊佐早城
ライター談義
諫早市立図書館
少女
村の鍛冶屋
赤鉛筆を……
効能書き
コーヒー談義
絵を見る場所
水車小屋
木箱の中には
砲術指南
乞食
夕方の匂い
銀飯
夏の歌
郷愁
廃墟願望
歳月
名前
マザー・グースと推理小説
映画と体力
歩廊の眺め
数学
切り抜き
コレクション
七人の侍

 1977
伊佐早氏のゆくへ
雑誌好き
鎧について
豊前海の松下竜一さんへ——漁師らはどこに帰る
失われた日本語の魅力
岩波版「芥川龍之介全集」
窓の眺め
干潟のほとり
日本人の顔
父の二つの顔
木下和郎「詩集 草の雷」推薦文
Kの話その他
私の遺書
夕暮れの有明海
私の長崎
題名のつけかた
とびはねて潟をゆく
一九七七年夏
靴の話
「南島譚」
イワテケン
混血
「諫早菖蒲日記」について
「異邦人」を読むまで
焼物
白磁の里をゆく

海の光・川の光——「長崎を描いた画家たち展」によせて
歴史小説と年齢
初めて本を贈られた頃
「真実」語る無名の戦記
「ふたりの女」をめぐって
後ろ姿
三十六年目の十二月八日——老兵たちが語りのこしたいこと
海辺のゆううつ

解説——同時代の語り部  池内紀
初出一覧

編集協力 浅尾節子

書評情報

朝日新聞
2014年7月13日
田中俊廣(詩人・活水女子大学教授)
毎日新聞「詩歌季評」2014年6月29日(西部本社版)
下野新聞
2014年6月15日(共同通信配信)
河北新報
2014年6月15日(共同通信配信)
青木有一(小説家)
読売新聞「空想書店」2014年8月10日
大矢和世
西日本新聞2014年11月5日(水)
井上文(フリーライター)
西日本新聞2014年10Gつ12日(日)
岡崎武志(フリーライター)
東京新聞「話題の本2014」2014年12月21日(日)
琉球新報(共同通信配信)
2014年8月20日

関連リンク