みすず書房

「私は自分でも自分が耄碌しかかっていることがよくわかる。記憶力はとみにおとろえ、人名を忘れるどころか老人の特権とされる叡智ですらもあやしいものである……私はある種の老人のように青年たちから理解されようとも思わない。また青年たちに人生教訓をさずけようとも思わない。ただ人生を茫漠たる一場の夢と観じて死にたいのだ。そして人生を模糊たる霞の中にぼかし去るには耄碌状態が一番よい」(耄碌寸前)。
「家庭人鷗外の遺産というなら、第一に森於菟だと——少なくとも私は考えている……老いた父親が求め、めざし、ようやく手に入れたものを、長男於菟は早くから過分なまでに身におびていた。二代がかりで実現した個性という点で、森於菟こそ正統の鷗外遺産といえるのだ」(池内紀・解説)。
自らの生い立ちと観潮楼の盛衰=哀歓を重ね合わせた「観潮楼始末記」や父の死因を探る「鷗外の健康と死」をはじめ、半熟卵へのオマージュ、日本の解剖学史の逸話、シェパード犬飼育の苦労など——自制と諧謔の絶妙なバランスによって達成された随筆を精選。

目次

I
耄碌寸前
文学離絶
弱きものよ汝の名は男なり
空想半熟卵
先生の今昔
観潮楼始末記
鷗外の健康と死
なきがら陳情
死体置場への招待
魂魄分離
全終会
解剖随筆抄

II
臍を噛む
蛙の臍
敬礼
鯨とポプラ
抽籤
放心教授
犬の死因
老犬
解剖雑話

解説……池内紀

書評情報

毎日新聞
2010年11月7日(日)
蜂飼耳(詩人)
読売新聞2010年11月7日(日)
東京新聞
2010年12月19日(日)
平松洋子(エッセイスト)
朝日新聞2011年1月23日(日)
鷲田清一
朝日新聞「折々のことば」2016年2月25日

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