みすず書房

《自然石と向き合っていると、石が話をはじめるのですよ。その声が聞こえたら、ちょっとだけ手助けしてあげるんです》
「日本で過ごした子ども時代から、ノグチは庭園に配された石は草木よりも大切であることを知っていた。石は庭園の骨組みである。禅寺の庭のなかで、熊手で紋を引いた砂から姿をあらわす石たちは海から立ちあがる島のようなものだ。《平安は石によって庭園のなかに確立されることを日本人は学んできた》とノグチはユネスコ庭園開園の数ヵ月前、あるインタビューで語っている。《それは彫刻家としてのぼくにとって、謙虚さのレッスンだ。もし石が、ぼくが手を触れる前のほうがよいのだとしたら、そこになにかぼくのなすべきことがあるだろうか?》。この姿勢が晩年の20年間、石を彫るのと同じだけの時間、石に耳を傾けて過ごすようノグチをうながした」
時に挑み、時に触れる——アメリカ人の母と日本人の父のあいだに生まれ、第2次世界大戦をはさんで東西を往来しつづけた20世紀の世界的彫刻家。周囲の人々の新たな証言とともに資料を駆使して波瀾万丈の生涯をたどりつつ、変幻自在な彫刻群のみならずランドスケープ、庭園、パブリックアート、舞台装置、家具・照明など多ジャンルにわたる作品の誕生を克明に解き明かしたノグチ伝の決定版。図版多数収録。

目次

序章

第1章 両親
第2章 ディア・ベイビー
第3章 東京
第4章 茅ヶ崎
第5章 セント・ジョセフ・カレッジ
第6章 インターラーケン
第7章 ラ・ポート
第8章 ぼくは彫刻家になった
第9章 ぼくは不滅の人びとと並び立つでしょう
第10章 大樹の陰から外へ
第11章 頭像・胸像制作者
第12章 自然の理由を見つけるために
第13章 大地との固い抱擁
第14章 孤独な旅人、社交界の花形
第15章 空間の彫刻に向かって
第16章 社会的目的をもつアート
第17章 メキシコ
第18章 ニューヨーク、1936-39年
第19章 カリフォルニア
第20章 ポストン
第21章 マクドゥガル・アレー
第22章 アンへの手紙
第23章 ノグチとマーサ・グレアム、情熱的なコラボレーター
第24章 岩とあいだの空間
第25章 タラ
第26章 1946-48年
第27章 袋小路
第28章 ボーリンゲン基金調査旅行
第29章 先触れの鳩
第30章 新萬來舎
第31章 三越デパート「イサム・ノグチ作品展」
第32章 山口淑子
第33章 北鎌倉
第34章 ぼくの慰めはいつも彫刻
第35章 ユネスコ——ちょっと日本的な庭園
第36章 変化したヴィジョン
第37章 プリシラ
第38章 ノグチと仕事をする
第39章 浮遊する岩たち、祈りの翼
第40章 自伝に向かって
第41章 形態と機能の入門書
第42章 小麦そのもの
第43章 赤い立方体、黒い太陽
第44章 石壁サークル
第45章 《自然のゆくてをさえぎる》
第46章 人びとがいくところ
第47章 想像の風景
第48章 《カリフォルニア・シナリオ》
第49章 ベイフロント・パーク
第50章 価値あるものはすべて贈り物として終わらなければならない
第51章 京子
第52章 始まりにも、終わりにも

原注
謝辞
訳者あとがき
索引

書評情報

伊藤亜紗(東京工業大学准教授・美学者)
読売新聞2018年3月18日(日)
椹木野衣(多摩美術大学教授・美術批評家)
朝日新聞2018年4月14日(日)