みすず書房

生存する意識 電子書籍あり

植物状態の患者と対話する

INTO THE GRAY ZONE

判型 四六判
頁数 320頁
定価 3,080円 (本体:2,800円)
ISBN 978-4-622-08735-9
Cコード C0040
発行日 2018年9月18日
電子書籍配信開始日 2018年9月28日
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生存する意識



「植物状態」と診断された患者にじつは十全な知覚や認識能力があるとしたら、それをどうすれば証明できるだろう? 本書の著者はfMRIなどの脳スキャン技術を用いた実践的なマインドリーディングの手法を開発した。そこで明らかになったのは、「意識がない」はずの患者たちの中に、問いかけにYes/Noで答えるなどの紛れもない認知活動をやってのける人々が少なからずいるという事実だ。意識があるかないかの二分法では捉えきれない「グレイ・ゾーン」を探究する、緊迫の研究報告。
患者が応答できるとわかったとき、「あなたは死にたいか?」と聞くべきだろうか? 著者の成果は脳損傷患者のケア、診断、医療倫理、法医学的判断といった幅広い領域に波及するものだ。しかも、著者が意識の存在証明に迫れば迫るほど、既存の枠組みでは説明できない現象が掘り起こされる。「意識」概念の輪郭が崩れ、他者との関係の中に溶けていく。新たな疑問がいくつも湧き上がる。
12年間も植物状態と思われながら、完全に近い認識能力を保っていたスコット。ヒッチコックの映画を使って意識が確認された映画好きのジェフ。グレイ・ゾーンにいたときの気持ちを回復後に語るケイトやフアン……。検出限界未満の意識が生み出す計り知れない生命力や、それを支えた家族の力にも圧倒される。脳と意識の謎の奥深さにあらためて衝撃を受ける一冊。

【新聞・雑誌書評より】
“バスタイムにこの本を読み始め、三時間後、すっかり冷たくなった風呂水の中で読み終わった。……宇宙に放り出された宇宙飛行士よりも他人と深く隔絶された人々とオーウェンとのコミュニケーションにあまりにも引き込まれ、バスタブから出られなかった。”
──クリストフ・コッホ(神経科学者・原著書評より)

“意識を主題とする研究は、人生そのものの意義に関わらざるを得ない。著者はいわばごく素直に、その道を歩いてきた。それが本書を単なる科学書ではない、素晴らしい作品にしているのである。”
──養老孟司・評(「毎日新聞」2018年10月7日より)

“まったく動かない身体の中に閉じ込められていた意識とスキャンを通してコンタクトする瞬間には、激しく心を揺さぶられ、胸が熱くなる。”
──服部文祥・評(「読売新聞」2018年10月28日より)

“完全に認識が変わった。これまでは自分が植物状態になれば無理に生きたくはないと漠然と考えていたが、今は違う。植物状態になっても生きていたいし、妻にも何があっても鼻の栄養チューブを抜かないでくれとお願いした。意識とは何か、生きるとはどういうことか。従来の価値観がひっくり返る驚天動地の物語だ。”
──角幡唯介・評(『文藝春秋』2018年12月号より)

目次

プロローグ
第一章 私につきまとう亡霊
第二章 ファーストコンタクト
第三章 ユニット
第四章 最小意識状態
第五章 意識の土台
第六章 言語と意識
第七章 意志と意識
第八章 テニスをしませんか?
第九章 イエスですか、ノーですか?
第一〇章 痛みがありますか?
第一一章 生命維持装置をめぐる煩悶
第一二章 ヒッチコック劇場
第一三章 死からの生還
第一四章 故郷に連れてかえって
第一五章 心を読む
エピローグ

謝辞
日本語版のための追記——原著執筆後の進展
訳者あとがき
原註
索引