みすず書房

回想のケンブリッジ

政治思想史の方法とバーク、コールリッジ、カント、トクヴィル、ニューマン

判型 四六判
頁数 336頁
定価 8,250円 (本体:7,500円)
ISBN 978-4-622-08808-0
Cコード C1031
発行日 2019年5月16日
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回想のケンブリッジ

学問的自伝の色合いを帯びた美しい回想記に導かれるモノグラフ集成。著者は長年第一線で、歴史的な政治思想史をひとすじに追究してきた。
〈私には、その後の研究人生の中で、長い時間をかけて少しずつ自覚化されてきた目標がある。その目標とは、最も広い意味で運動論とは距離を取ることを心掛けながら、思想家たちがそれぞれ遭遇した状況の中で、所与の言語的資源の制約のもと、いかにそれを最大限に利用して対処したかを、及ぶ限りの想像力を働かせて描き出す努力をすることである〉〈およそ思想家と呼ばれるほどの人物には多面性が常に伴う。研究者は、その多面性の構造と理由に対して最大限の尊敬を以て接しなければならない。そして、その思想家が論じた事柄が何らかの意味で政治と深い関わりを持つ時、私たちは彼/彼女を政治思想家と呼ぶ〉(序章)
スキナー、ダン、ポーコックらいわゆるケンブリッジ学派との出会いが、方法意識をより明確化した。やがてヨーロッパ二千年を貫く自由意志論思想史へ。その構想上に再定位される思想家研究——『フランス革命の省察』の定評ある訳で知られる著者の初期バーク論、政治思想家コールリッジの誕生過程を跡付ける重要論考。次いで方法論を正面から問う一章を置き、自由論史上の決定的転回点カント、摂理としてのデモクラシーを考えたトクヴィル、そして〈歴史上最も変わり難い精神の持ち主〉カトリックの大思想家ジョン・ヘンリー・ニューマン研究の端緒となるべき瑞々しい〈序説〉(書き下ろし)。単著未収の主要論考を編む。

目次

序章 回想の「ケンブリッジ学派」——一政治学徒の同時代思想史物語
I ケンブリッジ 1970年
II 出会い
III 1980年代以降

第一章 思想家としてのエドマンド・バーク——1780年まで
I 研究史の混沌状態——一つの解の試み
II 認識者バーク——政治生活以前の諸作品に見る
(i) はじめに──二つの作品群
(ii) 文芸批評または美学
(iii) 歴史論
III 政治生活中の書簡その他
(i) はじめに
(ii) 1765年-74年
(iii) 1775年-80年

第二章 コールリッジにおける政治哲学の形成
I 政治思想史研究のコールリッジ無視——異なる選択肢を探る
II 政治哲学を志して
(i) 二つの根源的重層性──孤独と共同性・転向と一貫性
(ii) 伝記──1810年まで
III リパブリカン・コールリッジ——ブリストル講義
IV The Friend——挫折からの再出発・読者の模索
V The Friend の理論——自由の主体としての人間・社会原理としての愛・法への服従

第三章 政治思想史叙述のいくつかの型について
I 方法論の必要と限界
II 政治的行為としての理念史
III 精神史型思想史の問題と成果
IV もう一つの政治思想史

第四章 自由意志論思想史上のカント
I なぜカントなのか
II 前提——自由意志論とその歴史的射程
III 疑問と仮説——先に進む前に
IV 「自由」の概念
(i) 道徳法則としての
(ii) 宗教に関する思想・表現の自由
V 「共和主義者」カント

第五章 キリスト教思想家トクヴィル——摂理・自由意志・デモクラシー
I 〈キリスト教思想家トクヴィル〉の仮説
II カトリック貴族トクヴィル
III 宗教意識と教会論
(i) 宗教意識──創造の秩序の観想と人間義務論
(ii) 教会論
IV 摂理としてのデモクラシー——そのキリスト教性
V 結びに代えて——自然法認識の隘路

第六章 思想家ニューマン研究序説——その人間・世界像
I 日本におけるニューマン——歴史的状況の概観
II 生涯と作品
(i) 人間・世界像の確立──『大学説教集』前半
(ii) 「トラクト」運動家ニューマン
(iii) 運動の中の思想家ニューマン──二つの作品
(iv) 改宗と『キリスト教教義発展論』
(v) カトリック・ニューマン──結び


あとがき
索引

書評情報

苅部直(政治学者・日本政治思想史)
東京人2019年11月号