投票の政治心理学
投票者一人ひとりの思考に迫る方法論
INSIDE THE MIND OF A VOTER
A New Approach to Electoral Psychology
判型 | A5判 |
---|---|
頁数 | 392頁 |
定価 | 6,380円 (本体:5,800円) |
ISBN | 978-4-622-09641-2 |
Cコード | C1030 |
発行日 | 2023年9月11日 |
INSIDE THE MIND OF A VOTER
A New Approach to Electoral Psychology
判型 | A5判 |
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頁数 | 392頁 |
定価 | 6,380円 (本体:5,800円) |
ISBN | 978-4-622-09641-2 |
Cコード | C1030 |
発行日 | 2023年9月11日 |
本書の特徴は、「選挙の機能」の捉え方にある。伝統的な政治心理学における投票行動研究では、「政治の代表者の選出」をはじめとした制度に基づく機能に焦点が当てられてきた。しかし本書では、選挙には投票者を中心に据えた機能も備わっている、と考える。選挙は政府と市民、さらには市民同士の交流の機会となっていて、そのことが確かに個々の投票者に影響を与えている――これがその考えの中核である。
著者らは選挙のそうした影響を知るため、「行動」「経験」「解決感」という三本の柱を分析の軸に据えた斬新な方法論を設計し、世界6ヵ国(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ジョージア、南アフリカ共和国)で大規模な調査を行った。対象とした選挙の中には、あのEU離脱国民投票や2016年のアメリカ大統領選挙といった、世界中の関心を広く集めた選挙も含まれる。
実際に行った調査の方法はきわめてユニークである。自己報告型データ(標準的な質問票調査、選挙期間の前後の日記や、投票直後のインタビューなど)、観察データ(投票立会人による観察報告)、そして実験型データ(模擬投票のシーンを撮影し、その映像を分析するなど)と三方向から多彩な情報を収集。パーソナリティ特性や選挙の記憶、そして選挙のさまざまな段階で抱く感情などに着目して分析している。
本書は従来の研究における想定を覆し、新たなスタンダードとなりうるか。国を問わず、誰もが関与しうる選挙。その大規模で普遍的なイベントをより深く理解するための、挑戦的研究。
序文と謝辞 各章の概要
1 ホモ・スフラーガートル
投票するヒト なぜホモ・スフラーガートルなのか? ホモ・スフラーガートルとは何者か? 個人と集団 入れ子構造になった長短のサイクル 不可解にして魅力的な投票者の心理 従属変数の転換 定着と改革のバランス――地図にある領域とない領域を進む 課題とパズル リサーチクエスチョンと運用上の課題 モデル 本書の真髄
2 投票者の心の地図を描く ホモ・スフラーガートルの解剖学
投票行動の心理学のベールを剥ぐ 選挙の社会化モデル 選挙の記憶と投票 「パーソナリティと投票」に関するパンドラの箱を開ける パーソナリティから倫理観へ 感情と投票行動 文脈の個人的側面とエコーチェンバー現象、および選挙の雰囲気 選挙の機能 選挙エルゴノミクスの概念 選挙は個人と社会の架け橋となるのか 社会志向的認識/個人志向的認識と投影 投票者の役割と共感的置き換えの問題 投影された有効性感覚 選挙のアイデンティティの概念――審判かサポーターか? 選挙がもたらす絶望と敵意 方法論的挑戦と条件 包括的な研究デザイン 従属変数へのアプローチと操作化 比較の範囲 第一の構成要素――大規模調査とパネル調査 第二の構成要素――インデプスインタビュー、スポットインタビュー、日記 第三の構成要素――視覚的実験 第四の構成要素――直接観察 方法論的トレードオフ
3 投票者の1日
投票日 高まる雰囲気 拡張現実 特別な1日 投票所にて 誰と投票に行くのか? いつ投票に行くのか? 感情の高まり 投票ブースの中で何を考えるのか? 一票に込められた思考 投票ブース内での思考――複雑な尺度 従来型投票者と、リモート投票者の思考を比較する 年齢と性別による差異 投票しない人の1日 エレクション・ナイト――投票日の夜 目まぐるしいエレクション・ナイト 試合後の審判とサポーター 終幕の機会
4 パーソナリティと倫理観
私的契約 8種類の個別のパーソナリティ特性 パーソナリティ特性の影響 派生的なパーソナリティ――選挙の文脈におけるパーソナリティ パーソナリティから倫理観へ 倫理観と選挙への参加 倫理観と左派/右派への投票 倫理観と過激主義 個人志向的/社会志向的投票の心理 個人志向的/社会志向的態度のバリエーション 社会志向性の尺度 社会志向性、選挙への参加、選挙での選択 投影的な市民――長期的な投影の力 モデルのステージ1――パーソナリティ、倫理観、社会志向性は重要なのか?
5 選挙の記憶
選挙の記憶とは何か? 国家としての決定的な瞬間と、個人的な物語――投票者はどちらを記憶するのか? 構築された幼少期の選挙の記憶 構築された特別な初投票の記憶 幼少期の選挙と、特別な初投票の物語 選挙の記憶と、個人と社会の接点 選挙の記憶の触覚的、聴覚的、感覚的要素 過去から現在へ――選挙の記憶の影響 選挙の記憶、共感的置き換え、有効性感覚 モデルのステージ2――選挙の記憶は重要なのか?
6 選挙のアイデンティティと、個人と社会のダイナミクス
選挙のアイデンティティの概念 認知的な障害としての機能 既存の類型論とその限界 選挙のアイデンティティの基本モデル――「審判」と「サポーター」 「サポーター」という選挙のアイデンティティ 「審判」という選挙のアイデンティティ 投票者としての役割を市民の言葉で表現する 審判/サポーターモデルの自発的な裏づけ 各国の審判とサポーター 真のアイデンティティ? 審判/サポーターアイデンティティの時を超えた安定性 審判とサポーター――社会的、人口統計学的、心理的な分析結果 選挙のアイデンティティがもたらす結果 鏡と投影――個人と社会の接合点としての選挙 将来をイメージする――長期的な投影と世代間の投影 アイデンティティの再統合――共感的置き換えと選挙のアイデンティティ 投影された有効性感覚 モデルのステージ3――選挙のアイデンティティ、投影、共感的置き換えは重要なのか?
7 選挙と感情
感情の内生的な性質 感情――選挙がもたらす緊張、涙、幸福感 選挙がもたらす涙 投票ブース内での肯定的な感情 選挙がもたらす感情は性別によって異なるのか 選挙がもたらす感情は年齢によって異なるのか 初体験の胸の高鳴り…… 感情の潜在的尺度 視覚的に表示された投票ブース内での感情と、キネシクス分析 感情の依存性
8 選挙エルゴノミクス
選挙エルゴノミクスの概念 リモート投票の謎 選挙エルゴノミクスについての事例研究 その1――投票所の重要性 選挙エルゴノミクスについての事例研究 その2――二世代物語? 選挙エルゴノミクスについての事例研究 その3――1枚の紙の重要性 選挙エルゴノミクスのすべての影響を理解する
9 選挙がもたらす解決感と雰囲気 希望から敵意まで
選挙がもたらす解決感――サイクルの終結 前代未聞の時代? 政府なき選挙? 選挙の雰囲気を解読する――イギリスの二つの事例研究 希望の光と選挙がもたらすハネムーンの概念 「どのみちこれ以上悪くなりようがないから」 絶望への対処法としての世代間の投影 敵意の表現 「憎しみ2.0」? 和解不能、サイロ化現象、ポピュリストによる分断 選挙がもたらす解決感を再考する
10 最終章 選挙の世界をひっくり返す 理性の時代を超えたホモ・スフラーガートル
照明を切り替える 投票者の心の謎に関する重要な発見 鶏が先か卵が先か? 選挙の真実は明らかになったのか? パーソナリティ、選挙の記憶、選挙のアイデンティティは重要なのか? 静的なモデル 相互作用する動的モデル 投票日の内面化 情熱的な経験 終わらないサイクル 人間の能力を最大限に引き出す ジキル博士とハイド氏? 敵意のパラドックス 宿敵と犠牲者 最終的な希望と最終的な危険性? 選挙がもたらす平和の心理
概念の用語解説 参考文献 索引
「常識」を覆そうという挑戦的なモデル設計に至った著者らの発想とは