みすず書房

ヤーコブソン/レヴィ=ストロース往復書簡

1942-1982

CORRESPONDANCE

1942–1982

判型 A5判
頁数 472頁
定価 8,800円 (本体:8,000円)
ISBN 978-4-622-09658-0
Cコード C1010
発行日 2023年11月10日
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ヤーコブソン/レヴィ=ストロース往復書簡

〈構造主義の「結晶化」を駆動しているのは、二人の思想家の接近というよりも、むしろ反発とも呼べるほどの距離感、ヤーコブソンも認めるレヴィ゠ストロースの類稀なる「距離についての深い直観」だったのではないだろうか〉(訳者あとがき)。
構造言語学のロマーン・ヤーコブソンと構造人類学のクロード・レヴィ゠ストロース。20世紀思想史に聳え立つ二人が生涯の友情に結ばれ、両者の出会いこそが時代を画す構造主義の大潮流を生み出したことは、当時から広く知られてきたが、本書はこれまで未公刊の書簡群を編み、まさしく構造主義が生成するその現場を照らし出す。
有名な唯一の共著論文「ボードレールの「猫たち」」成立過程を仔細に明かすやり取りをはじめ、古スラヴ語の親族名称をめぐる応酬、ロシア語の音韻論的システムの考察。大洋を挟んで草稿を送り合い、人間諸科学の数学化に期待し、学界内の攻撃には共同戦線を張る。実り豊かな交感と、そしてまた、実現しなかったいくつものプロジェクト。〈恐るべき学識と関心の幅広さ、奥深さに打ちのめされない者はいないだろう。しかしながら、それ以上に私たちを深く揺さぶるのは、彼らの交流が、彼らが生きた時間の中で、「人間と作品の間の心揺さぶる親近性」を示しつつ、職業上の不安、不安定な国際情勢、打ち捨てられた計画、物理的あるいは心理的な行き違い、健康上の不調、友人の死など、無数の断絶(あるいはその予感)を経ながら、ついに二つの偉大な記念碑を打ち立て、構造主義という一本のラインへと結実していくその確かな足取りである〉(同上)。編者の詳密な注と序文、関連テクスト精選8点をも収める。

目次

序文 構造主義の結晶化
前書き
謝辞

往復書簡

付録
1 シャルル・ボードレールの「猫たち」  ロマーン・ヤーコブソン/クロード・レヴィ゠ストロース
2 言語学は諸科学の科学になっていくのか――構造主義の創設者ロマーン・ヤーコブソンとの対話  クロード・ボヌフォワ
3 討論「生きることと語ること」  フランソワ・ジャコブ、ロマーン・ヤーコブソン、クロード・レヴィ゠ストロース、フィリップ・レリティエを交えて
4 韻律法素描――中国の定型詩におけるモジュール原理  ロマーン・ヤーコブソン
5 ロマーン・ヤーコブソン――或る友情の物語  クロード・レヴィ゠ストロース
6 親愛なるクロード、親愛なる先生  ロマーン・ヤーコブソン
7 声明  クロード・レヴィ゠ストロース
8 フランス語の音韻論的構造に関する注記  ロマーン・ヤーコブソン/ジョン・ロッツ

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編者紹介
訳者あとがき

本書所収の書簡より

 

最近、絶望の道に入り込んでいます。[…]こうした不規則性は、同じタイプの、しかし互いに孤立したシステムにおいて再生産されています。したがって、そこには何らかの合理性があるに違いありません。たとえこの合理性が合理的なものではないとしても。
(レヴィ゠ストロースからヤーコブソンへ 1942年7月7日)

もし古スラヴ語の問題に取り組んでいただけるのでしたら、とりわけ次の問題を検討していただければと思います。
方程式:母の父 ゠母の兄弟(avus / avunclus型)
 〃 :姉妹の夫 ゠娘の夫(γαμβρός / γαμβρός型)
 〃 :姉妹の夫 ≠ 妻の兄弟、そしてこの場合、
 〃 :妻の兄弟 ゠x?(おそらく「゠母の兄弟」、これが理想的です)
(レヴィ゠ストロースからヤーコブソンへ 1947年12月29日)

「姉妹の夫」を示す名詞は何かとお尋ねでしたが、それはzętĭです。「娘の夫」を意味する名詞と同じです。同じように、snŭxaは同時に「兄弟の妻」と「息子の妻」を指します。リトアニア語のavainisは、同時に「姉妹の夫」と「妻の兄弟」を意味します。リトアニア語のlaiguonasは、「妻の兄弟」を指す方言で、おそらくもっと古代のものです。[…]
(ヤーコブソンからレヴィ゠ストロースへ 1948年5月29日)

近々ハーヴァード大学に籍を移すことになりました。私はスラヴ語とスラヴ文学の講座を受け持つことになっております。[…]あちらには、哲学科にも心理学科にも、意味論のさまざまな潮流の並外れた代表者たちがいます。私の計画は、意味というものを、言語科学の中心的で熱い問題として高く掲げることです。
(ヤーコブソンからレヴィ゠ストロースへ 1949年4月18日)

あなたがもっと近くにいないことが非常に残念です。一緒なら良い仕事ができるでしょうに。それに、互いを目覚めさせることができるでしょうに。
(ヤーコブソンからレヴィ゠ストロースへ 1949年9月14日)

数日前、ニューヨークにいたときに、たまたま用事があってマーガレット・ミードに電話したのですが、彼女は前置きなしに、あなたがパリで耐え難い状況に置かれていることについて話し始め、それはフランスの人々があなたを理解せず、あなたが相応の地位を手にすることを妨げているせいだと言っておりました。
(ヤーコブソンからレヴィ゠ストロースへ 1950年2月14日)

お手紙の中で書いてくださったことのどれもが、ご助言やご提案が、心に深く響きました。ただ、今のところすぐにというわけにはいきません。個人的な観点からも、学問的な観点からも、この国ですべてに決着がついたわけではありませんし、起きてほしいと思っている変化もまだいくらかあるのです。
(レヴィ゠ストロースからヤーコブソンへ 1950年3月27日)

パキスタンではしなければならないことがたくさんあり、またユネスコに定期的にレポートを送らねばならず、それが重荷となって、他の文通をすべてほったらかしにしていたのです。それに、帰国してからも倦怠感に沈み込んでしまっていて、何か書いたり、特に友人に手紙を書いたりしようという意欲がまったく湧いてこなかったのです。コレージュの落選は、耐え難いほど辛いものでしたから。決定的なものに思えるだけに、なおさらです。どの機関であれ、そして何の目的であれ、今後は立候補などすまいと固く決心しました。
(レヴィ゠ストロースからヤーコブソンへ 1951年3月15日)

あなたがお受けになった申し出は、著作を執筆したり同志を募ったりするために、想像するかぎり最大の可能性を開くものです。これまでかくも有益だった私たちの協業活動も再開されることでしょう。ロマーン
(ヤーコブソンからレヴィ゠ストロースへ電報 1953年12月3日)

あなたの研究グループが目標として立てていた「構想中の書籍」が無期限に延期されたと書かれた手紙を受け取り、非常に衝撃を受けました。どうして私に直接知らせてくれなかったのですか。
(ヤーコブソンからレヴィ゠ストロースへ 1954年3月6日)

私が現在専念しているのは、神話に関する大部の著作を、テープレコーダーに向かって「語る」ことです。この本は、次のような三部構成になるでしょう。理論的かつ方法論的な序論、プエブロの神話に関する長く念入りな分析(この神話は私の理論をテストする特権的な例だと考えられます)、最後に、数学者の協力者たちが同意してくれれば、適切な形式化が提示される数学的補遺です。
(レヴィ゠ストロースからヤーコブソンへ 1954年3月13日)

ご著書は、私に熱中して読書する時間をもたらし、構造人類学と構造言語学のために現在も未来もせねばならない闘いについての想いへと導いてくれました。一点ずつあなたと議論を交わすことができればと思うような疑問が、たくさんあります。私は7月19日にヨーロッパに向けて出発します。7月26日か27日頃に、ライデンからお電話差し上げることにします。
(ヤーコブソンからレヴィ゠ストロースへ 1958年7月10日)

料理の起源についてなのですが、タルムードが、大麦は「声を張り上げて」、レンズ豆は「静かに」調理せよと命じている理由について、ひょっとして何か考えをお持ちではないでしょうか。
(レヴィ゠ストロースからヤーコブソンへ 1958年12月26日)

詩について二人で話したことが、私の中で燻り続けておりました。同封の二つの試みを送ります。一つはボードレールに関するもので、もう一つはネルヴァルに関するものです。寛容な目で読んでいただければと思います。
(レヴィ゠ストロースからヤーコブソンへ 1960年11月16日)

二つの詩に関する驚くべきご研究を送っていただき、心より感謝いたします。とりわけボードレールのソネットと、それに対するご解釈が魅力的に思えました。かなり研究せねばなりませんでしたが、ようやくあなたの諸々の注釈を仕上げ、発展させることに成功したと感じております。[…]具体的なご提案を差し上げたいのですが、もし同意していただけるのであれば、二人でこの詩の構造に関する試論を執筆し、私が準備している著作『文法の詩と詩の文法』に、関連論文という形で含めることにしませんか。
(ヤーコブソンからレヴィ゠ストロースへ 1960年12月8日)

あなたの「猫たち」を、熱中して読みました。私がほんの僅かなことを、しかも非常に混乱した仕方で読み取ったテクストから出発して、あなたがたどり着いた結論は、見事というほかありません! […]困惑している部分もあります。私から何か、決定稿となるようなもの(?)が届くのをお待ちになっているのでしょうか。あなたの分析の恐るべき専門性について、お考えになったことはありますか。
(レヴィ゠ストロースからヤーコブソンへ 1961年7月25日)

こんなにもしつこくお願いさせていただきますのも、『注記』やKindersprache以来、これまでこの『詩の文法』ほど、私に取り憑いてきた著作もないからです。この著作に対しては、他よりもずっと感情的な関係で結ばれている気がします。おそらく、その理由は、この著作においては、私が偏愛している二つの領域、つまり言語と詩がしっかりと足場を固めているからです。
(ヤーコブソンからレヴィ゠ストロースへ 1961年7月28日)

あなたは、トーテミズムの問題の煩瑣な点をすべて解消することに成功しておりますし、『野生の思考』では、現代人類学の主要な問いを、言語人類学の歩みや方法や反復的モチーフと見事に結びつけておられます。固有名に関する章は、言語理論に対する直接的で注目すべき寄与になっております。私たちの道が、これまで以上に接近していることが何よりもうれしく感じられます。[…]ご著書の中で、私にはやや概略的で、建設的観点から説得力を欠いているように見える唯一の章は、サルトルとの論争です。
(ヤーコブソンからレヴィ゠ストロースへ 1962年6月27日)

弁証法を問題にしようというわけではないのです。問題にしているとしても、あくまで陰画的な仕方にすぎません。この章の本当の目的は、歴史的認識というものは、野生の思考の上位にあるのでもなければ、外部にあるのでもないのだということを示すことです。つまり、歴史的認識は、文明化された白人の特権のようなものなどではなく、むしろ、まったく反対に、野生の思考の一部をなしているのだ、ということを示すことです。
(レヴィ゠ストロースからヤーコブソンへ 1962年7月5日)

……


本書には書簡の写真が一切収められていませんが、たとえば、« Les chats de Baudelaire et les rats d’archives », par G. D’Ottavi (en-attendant-nadeau.fr, le 16 juillet 2021, https://www.en-attendant-nadeau.fr/)などで、書簡やメモ(自筆ありタイプライティングあり)の画像を目にすることができます。

書評情報

郷原 佳以
(仏文学者)
「「構造主義」高め合う2人」
読売新聞 2024年1月21日
 
スフィンクス
東京新聞 2024年3月5日夕刊コラム「大波小波」