
2015.06.10
『丸山眞男話文集 続4』
丸山眞男手帖の会編 [全巻完結]
ワシーリー・グロスマン後期作品集 齋藤紘一訳
2015.05.26
5月は終わらない。5月の風と新緑を愛し、今月3日に亡くなった詩人の詩の引用から始めたい。
本を読もう。もっと本を読もう。もっともっと本を読もう。と書いた無類の本読み詩人は、40年以上前に「現代ロシヤ抵抗論集」の一冊として勁草書房から翻訳出版されたワシーリー・グロスマンの『万物は流転する…』を読んでいて、グロスマンの他の作品が日本語になることを知って、よろこんでくださった。
グロスマンのアルメニア旅行記は、『人生と運命』の原稿類一切合財がKGBの家宅捜索で没収された1961年の末に、仕事がなくなり、社会からはじきだされ、経済的に困窮したグロスマンが、友人にアルメニア語の小説の翻訳を紹介され、2か月間、出かけたときのものだ。死の2年半前になる。
ユダヤ人だけれども、信仰も慣習もないもたないグロスマンは、ソヴィエト市民というアイデンティティを保持してきながら、晩年、次第にユダヤ性あるいは宗教的なものへの思索を深めていく。
アルメニアはノアの方舟がたどり着いたアララト山を仰ぎ、301年、世界で最初にキリスト教を国教にした土地である。アルメニアの簡素で完成された教会建築(「高い完成度とは、目指すものへの最短距離、…もっともわかりやすい表現のことである」)に感嘆したあと、グロスマンはアルメニア教会の総主教に面会し、告白する。
この言葉は、総主教にはまったく届かなかった。
だが、「世界は一冊の本」という日本の詩集の名を伝えたら、グロスマンはほほえんでくれただろうか。
* * *
本書はスターリンの死(1953年)以降に執筆された短篇小説、随想・旅行記を初集成する。
ヒロシマに原爆を投下したアメリカ人パイロット(「アベル」)、ドイツ人動物園飼育員とゴリラ(「動物園」)、イタリア軍で四輪荷車をひくラバ(「道」)、スターリン体制下の大粛清の総元締めエジョフの養女(『母』)、両親との距離を感じはじめた9歳の少女(「大環状道路で」)などを主人公にした多様性が、グロスマンの文学世界をかたちづくる。
──ワシーリー・グロスマン、あなたの作品もまた。
日の光りのような、日々を輝かす省察に出会う一冊。
2015.06.10
丸山眞男手帖の会編 [全巻完結]
2015.05.25
旦敬介訳