みすず書房

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辻由美『読書教育』

フランスの活気ある現場から

アクティブな読書に向けて――著者からのメッセージ

アミドゥーはモロッコ出身、パリ13区のバシュラール電気技術職業高校の生徒だ。アミドゥーのクラスが、2005年、「高校生ゴンクール賞」に参加した。高校生ゴンクール賞とは、毎年フランスにおいて2千人ほどの高校生が審査員となって選出する文学賞だ。
参加クラスの生徒たちは、2カ月間で12作の候補作品を読まなければならない。

だが、アミドゥーのクラスの生徒たちには、ほとんど読書の習慣がない。冗談じゃない! みんないっせいにブーンイングを発した。「先生からゴンクールに参加すると聞かされたとき、はじめはゾッとした。喜んだ生徒はひとりもいなかったと思う」、アミドゥーはそう言う。
だが、いざ候補作を読みはじめると、興味が生まれた。作品の評価をめぐる議論は活発になっていった。そして、終わってみると、誰もが感激していた。アミドゥーがいちばん気に入っていたのは、シルヴィー・ジェルマン著『マグヌス』だったが、高校生ゴンクール賞を受賞したのはこの作品だった。「ゴンクールをやってすごくよかった。それまで読んでいたのはマンガだけで、文学なんて読んだことがなかった。自分は文学が読めるんだ、ということが分かった」。高校生ゴンクール賞には魔力がある。
子どもたちを審査員とする文学賞もある。クロノス文学賞とアンコリュプティブル賞。
クロノス賞は「老い」をテーマにした文学賞だ。審査員は幼稚園児から高齢者までのあらゆる世代で、候補作は6つのセクションに分けられている。参加者は4万人を超える。
アンコリュプティブル賞は、子どもたちを審査員とする文学賞では最大規模を誇る。幼稚園児から高校1年生まで7つのセクションに分かれていて、15万人をこえる児童・生徒が参加している。

ふつう学校で読むことがすすめられるのは、「良書」という折紙つきの本だ。が、これらの文学賞では、どの作品がすぐれているか評価を下すのは、生徒たち自身だ。必然的に読書はよりアクティブなものになる。そして、賞をあたえるという共通の目的が、密度の高いコミュニケーションの空間をつくりあげるのだ。

(辻由美)





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