みすず書房

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池内紀『祭りの季節』

池内郁|写真

「祭りをめぐる長い旅をした。
はじまりは一九九五年九月だった。岐阜県の山里で「掛踊(かけおどり)」といわれるものと対面した。偶然の出会いだったが、いまもまざまざと覚えている。意識して祭礼を訪ねあるくきっかけになったからだ。
地図でいうと岐阜県のほぼ中央部、「郡上おどり」で知られる郡上八幡(現・郡上市)と飛騨高山を結ぶ国道472号は、北の烏帽子岳の東かたで長大な坂本トンネルに入る。その手前に奥住、畑佐、明宝といった地名が見えるだろう。国道がこのあたりでは「せせらぎ街道」とよばれるのは、吉田川と寄りそうように走っているせいである。明宝地区の南で寒水川が注いでいて、これと寄りそって県道82号がうねうねと北西の方角へのびている。その川の水源に近い、どんづまりにあたる集落を寒水(かのみず)といって、「寒水の掛踊」は岐阜県重要無形民俗文化財、また文化庁選択民俗芸能に指定されている。……」(本書のはじまりにおかれた「祭りの季節 ちいさな手引き」書き出しより)

(p. 9)


(p. 99)


(p. 154)


(p. 325)

「たいてい十代終わりから二十代初めの若者がつとめるが、若ければできるというものではない。とりわけ二日目の「行修者水ごり」が苛酷で、雪の積もった神社の垢離場で、「みそぎ口上」を聞いたあと、水しぶきをあびて身を浄める。頭に白布を巻き、ふんどし一つ。白い小さな布を噛みしめて寒さに耐える。」
(「寒中みそぎ 北海道木古内」より →写真p. 9)

「古式にのっとり、「白丁」とよばれる若者が四人、白い衣服に白袴、頭に黒い烏帽子、足は黒足袋にワラジばき。洞穴から氷を切り出して新しい桶に入れ、二人で担ぎ、前後に二人と世話人が控えをとって山道を運んでくる。世話人は宿の長がつとめ、これは上下とも黒ずくめで、頭にはすげ笠。」
(「氷分け 群馬県草津」より →写真p. 99)

「曳山車そのものが舞台のつくりで、後ろに御簾(みす)があり、そこに「聲曲」の金文字がついている。お囃子方のいるところ。出演の七人を見ておどろいた。さながら菊五郎や吉右衛門である。団十郎もいれば、玉三郎もいる。左団次や三津五郎といったシブい脇役も欠けていない。ただからだの寸法が何割がた縮小しただけ。」
(「明神の申し子 富山県砺波」より →写真p. 154)

「西欧につたわる伝説では、夜がふけても眠らない子供に砂男がやってきて、目の中に砂を投げ入れる。悪魔の手下といった役まわり。そうやって恐がらせて子供をベッドにつかせたが、裏五島の砂鬼は逆であって、悪の到来を差しとめ、追っ払う。」
(「大宝砂打ち 長崎県玉之浦」より →写真p. 325)

――北海道は木古内から宮崎・西米良の〈夜神楽〉まで。日本全国のなつかしい36の祭りを自分の目で見て、その文化的=民俗的意味を確認し、楽しむ。高度成長期前の〈ねぶた〉を想起しつつ、盛大なるイベントを排して、地域の歴史と風土に根ざした祭りを改めて問い直す、貴重な探訪記。写真(池内郁)41点。




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