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『リアさんて、どんなひと?』

ノンセンスの贈物 新倉俊一編訳 [20日刊]

エドワード・リアは『不思議の国のアリス』を書いたルイス・キャロルと並べて語られることが多い。ともにノンセンスを得意とする作家ということだろう。しかし、この二人ほど相異なる詩人もいない。二人を分かつのは〈叙情〉と〈論理〉の違いである。オルダス・ハックスリーはこう言っている――

「リアはホンモノの詩人である。いったい彼のノンセンスは、常軌を少し逸した詩的想像力以外のなにものであろう。リアはことばにたいする本当の詩人の感覚をもっている……ルイス・キャロルは意味を誇張することによってノンセンスを書いた。つまり論理過剰の論理にすぎない」

リアのノンセンスの笑いは〈ペーソス〉をその底に秘めている。彼の読者はどこかでその哀感を共有することになる。「ヨンギー・ボンギー・ボーの求婚」や「光る鼻のドング」はロマン主義の哀歌に匹敵する傑作である。『ノンセンスの贈物』の五行ざれ詩もたんなる子ども向きの詩ではない。底を覗けば、〈てんかん〉で世間を避け、つねに弱者に優しかったリアの哀しみがよく分かる。この点で、リアはキャロルよりも『エリア随筆』のラムに似ている。姉の愛情のもとで、世間に迎合することなく、独自のユーモアのセンスを磨いた二人の文学者。

リアはみずから称して〈ノンセンスの桂冠詩人〉と呼んだ。ラスキンやチェスタートン、オーウェル、オーデンなど、この、つむじ曲がりの詩人を愛したひとは多い。おかたい詩人のエリオットさえも、リアの「リアさんて会うといいお方!/こんなくだらぬ本書いて」に敬意を表して、「エリオットさんて会うと全く不愉快なお方!」というパロディーをものしている。 そろそろリアさんを、子どもたちから取り戻す時機かもしれない。


(本書14-19頁)


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