みすず書房

「ずっと以前から、私は歴史家を職業としている。痕跡を利用しながら、真実の歴史を物語ろうと努めている(歴史が対象にしているのは、多くの場合、虚偽なのだ)。今日では、この定義を構成している項目(物語る、痕跡、歴史、真実、虚偽)のいずれもが、わたしには解決済みのものとはおもえない」(序文より)。
現代歴史学の第一人者による最新論集である。歴史の語りとフィクションの語りとの区別を抹消してしまったポストモダニストたちとの論争をつうじて、ギンズブルグは、歴史学の課題を明確にしつつ、そして実践してきた。フィクションと真実のあいだにある「偽って真実であると見せかけている」歴史的素材を丹念に解きほぐす、という課題である。
古代ギリシア・ローマの、生彩ある描写(エナルゲイア)と歴史叙述との関係を論じた「描写と引用」。作り話から真理を引きだす対話篇に歴史学の萌芽を読み取る「パリ、1647年」。ヴォルテールにおける啓蒙主義の歴史的限界と理念的遺産、「寛容と交易」。スタンダールの“自由直接話法”を歴史家への挑戦とみなす「冷厳な真実」。写真と歴史のアナロジーから、自然的現実の救済をみるクラカウアー論「細部、大写し、ミクロ分析」。そして「ミクロストリア」という呼称をめぐって、ギンズブルグの学問的自伝ともいうべき終章まで、全6編。

目次

序文
I‐1 描写と引用
I‐2 パリ、一六四七年——作り話と歴史についてのある対話
II‐1 寛容と交易——アウエルバッハ、ヴォルテールを読む
II‐2 冷厳な真実——歴史家たちへのスタンダールの挑戦
III‐1 細部、大写し、ミクロ分析——ジークフリート・クラカウアーのある本に寄せて
III‐2 ミクロストリア——彼女についてわたしの知っている二、三のこと

編訳者あとがき

書評情報

奥泉光(作家)
朝日新聞2009年1月25日(日)
白石嘉治(フランス文学)
図書新聞2009年4月4日(土)

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