みすず書房

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『ヒトラーを支持したドイツ国民』

ロバート・ジェラテリー 根岸隆夫訳

「ユダヤ人絶滅のために、当時のドイツ国民が積極的に協力した」ことを実証する本の出現。――その事実は「そこまで機が熟した」というショックと感慨抜きには受け止められない。戦後半世紀という歳月の長さと重み。訳者は、それについてこう書いている。

冷戦期には旧西ドイツが前哨線にあったために、ドイツの過去の暴露については政治的配慮がはたらいていたといわれる。冷戦は閉幕し、ナチ体制に因縁のあったドイツの政治家、官僚、学者たちは去り、新しい世代に交代した。ノーベル文学賞作家のギュンター・グラスが武装SS(ナチ親衛隊)に志願し、その一員だった事実を、名声が傷つくのを承知のうえでみずから認める時代になった。さらに、東西ドイツの再統一によって強大なドイツがふたたび中央ヨーロッパに屹立した。それは周辺諸国に、ドイツにたいする新たな関心(警戒心とまではいうまい)を呼び覚ましている。 (根岸隆夫「訳者あとがき」より)

ヒトラーの口癖は「戦場で兵士が必死で戦っているときに、銃後に犯罪があっていいのか」だった。「非社会的分子」や「社会の屑」の抹殺に向けて、ヒトラーの人心掌握術は徹底していた。一般市民はしだいに警察の目となり耳となり、身内や恋人まで進んで密告し、ナチ政権に協力するようになる。銃後の問題は他人事とはいえず、身につまされる。いったいどのように、それは可能になったのか。著者はこの疑問に、慎重に、しかし明快に答えてくれるだろう。




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