みすず書房

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A・ギャンブル『資本主義の妖怪』

金融危機と景気後退の政治学 小笠原欣幸訳

「妖怪がヨーロッパを徘徊している。共産主義という妖怪である。」

マルクス・エンゲルスは『共産党宣言』の冒頭でこう述べたが、本書の表題の妖怪は、資本主義自体、特に資本主義の中の行き過ぎたバブルをもたらす傾向を指している。追い払ったと思ってもまた現れ、人々の生活を貪り食うのが妖怪である。

本書でも触れられている資本主義初期のバブルである「南海泡沫事件」(サウスシー・バブル)では、金持ちになることを夢見て価値のないプロジェクトに投資した何千人もの投資家が破産した。しかし当時の金融危機は、単発でローカルな傾向があった。今日の金融危機は、グローバルに影響を及ぼし、危機の発端とは無関係な世界中の普通の人々の暮らしを犠牲にする。

いまから1年と少し前の2008年9月、米大手投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻したとき、現在の日本の経済状況を想像した人はさほど多くはなかったであろう。1年たってみると、遠いアメリカの出来事は、人ごとではなかったのである。

アイザイア・バーリン賞を受賞したイギリスの政治学者ギャンブルは、目下の金融危機と景気後退を、歴史・思想・国際関係から縦横に論じる。1930年代の金融恐慌、1970年代のスタグフレーションとの対比で分析し、新自由主義との関係を取り上げ、英米の政治への影響を議論し、金融危機後のグローバル経済の再編成を展望する。アメリカの主導権はいかに? 中国の行方は? 日本は?

経済と政治の両面から、重層的に、きめ細かく金融危機を分析した類例を見ない書である。




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