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『パゾリーニ詩集』
四方田犬彦訳 [17日刊]
訳者がピエル・パオロ・パゾリーニの翻訳を思い立ったのは1993年、それから年月をかけて訳してきたものを編んだ『パゾリーニ詩集』が一巻の書物として刊行される。四方田犬彦にとっては、未完のブニュエル論とならぶライフワークである。この本で初めて、映画監督として、小説家としてのパゾリーニに加えて、詩人としてのパゾリーニがようやく日本で姿をあらわすことになった。
ところで、詩人の声は大切だ。そのトーンによって、翻訳に用いられる日本語も違ってくるのは当然だ。であれば、これまで断続的に発表された折々に、一人称単数が「わたし」だった詩も、この詩集ですべて「ぼく」に統一されたのは、たとえば、「母への願い」を朗読する詩人の声を映像とともに聞いてみれば得心できよう。
- 一人でなどいたくない。ぼくの底なしの飢え。
- 愛、それも魂をともなわない、肉体だけの愛。
- だって魂はあなたのなかに、いや、すでにあなただから。
- でも母さん、あなたの愛はぼくを奴隷にする。
柔らかい声である。パゾリーニの詩を俳優が朗々と読むビデオもいろいろあるが、詩人みずからが発する言葉には押し付けがましいところはない。この傷つきやすい心の持ち主は「ぼく」しかない。
絶唱ともいうべき、この詩「母への願い」は、短編映画『ラ・リコッタ』が引き起こした「国家宗教侮辱罪」で入獄する直前に書かれた。釈放されたパゾリーニがパレスチナを訪れた後に撮り上げた映画『マタイ福音書』(日本公開題は『奇跡の丘』)で聖母マリアを演じたのは、ピエル・パオロの母スザンナであった。
1975年に無惨に殺されたパゾリーニ。そのパッション(受難=熱情)の生涯とポエジーを、ぜひ受けとめていただきたい。
◆「パゾリーニ「詩と真実」」 四方田犬彦トークのお知らせ[終了しました]
東京・銀座ヴァニラ画廊で開催されるパゾリーニに捧ぐオマージュ展「パゾリーニ幻想」(3月7日‐19日)の特別イベントとして、3月12日(土)、パゾリーニによる詩の朗読テープ公開と四方田犬彦トークの夕べ「パゾリーニ「詩と真実」」が開かれます(17時開場、入場料2000円・1ドリンク付)。お問い合わせは銀座ヴァニラ画廊へ(電話03-5568-1233、メールinfo[at]vanilla-gallery.com〔メールアドレスの[at]を@に換えてご利用下さい〕)。
http://www.vanilla-gallery.com/schedule/2011/20110307.html
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