みすず書房

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『アイ・ウェイウェイは語る』

ハンス・ウルリッヒ・オブリスト 坪内祐三・文 尾方邦雄・訳
[11月1日刊]

現代中国のマルチ・アーティストにしてアクティヴィスト艾未未(アイ・ウェイウェイ)は、今年の4月に北京国際空港で拉致されるように連行された。その情報が伝わるや、イギリスやスイスでは救援行動が起こり、アムネスティ・インターナショナルなども即時釈放を求めてきた。そして6月、温家宝首相の欧州歴訪の直前になって、人権問題が話題になるのをかわすためか、アイ・ウェイウェイは保釈されて自宅兼スタジオに戻った。

その後の様子は、香港のメディア「蘋果日報」オンライン版http://hkmagazine.net/news1/apple/に写真とともにアップされた訪問インタビューでもわかる(自宅で撮影された写真では、やや疲れているようだ)。ここでは、8月28日付けのニューズウィーク・オンライン版「The Daily Beast」に掲載された、アイ・ウェイウェイ本人のテキスト「The City: Beijing」の冒頭を紹介したい。

「北京は二つの街だ。一つは権力と金銭の街。人々は隣人が誰であるか気にもかけない――彼らはあなたを信用しない。もう一つはやけくその街。バスに乗っている人々の目には、なんの希望もないのが見て取れる。彼らには自分の家を買うことなど想像もできない。電気もトイレット・ペーパーも見たことがないような、最貧困の村から彼らはやってきた。
毎年何百万人もが、橋梁や道路や住宅を建設するために北京にやってくる。毎年彼らは、1949年時点での北京市と同じサイズの街を増設している。彼らは北京の奴隷だ。市が拡大しつづけるために取り壊した不法建築に住み着いている。この家は誰の所有なのか? 政府や炭鉱のボスや大企業のトップたちのものである。彼らは北京に贈り物をしにやってくる――だからレストランもカラオケ・パーラーもサウナも、結果としてとても潤っている。」

まるでハードボイルド小説のようではないか。アイ・ウェイウェイの精神が持っている、この乾いた感覚は、文化大革命の時代に父親(詩人の艾青)の流された新疆の穴倉で育ち、80年代ニューヨークのアートシーンを生き抜き、90年代から中国の激動のなかで世界のトップ・クリエイターの一人となった経歴と無縁ではない。

芸術と社会との関係、個人と体制との関係、西洋と東洋との関係……。インタビュー集『アイ・ウェイウェイは語る』は、1957年生まれの「凄い人」を知る格好の本となっている。




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