みすず書房

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加藤淑子著作集

1 『斎藤茂吉と医学』/2 『山口茂吉』/3 『斎藤茂吉と十五年戦争』/4 『游塵』 [全4巻]

医師でもあった「アララギ」の歌人による斎藤茂吉論を、改稿のうえ集大成。精神科医としての茂吉の経歴と短歌の創作履歴とを関係付け、自身が医師であることの知識と経験を活かしつつその全体像を論じた『斎藤茂吉と医学』、著者の短歌の師であった山口茂吉の生涯と作品を論じた『山口茂吉―斎藤茂吉の周辺』、1931年満洲事変から戦後1946年までの厖大な戦争歌について、時代状況との関係を綿密に検証した『斎藤茂吉と十五年戦争』、さらに自選の歌集『游塵』を加えた全4巻を刊行。

斎藤茂吉とクレペリン



「愛敬(あいぎょう)の相(そう)のとぼしき老碩学Emil Kraepelin(エミール・クレペリーン)をわれは今日見つ
われ専門に入りてよりこの老学者に憧憬持ちしことがありにき

上二首は「10月11日(木曜)、学会」と題せられ、「遍歴」八百余首の中でも特に印象に残る歌であるのは、近世実験精神病学の建立者の一人であるクレペリン(1856-1926)と斎藤茂吉と、共に強い個性を有する二人の出会いを背景とする所為であらう。」(『斎藤茂吉と医学――加藤淑子著作集1』より)

『赤光』『あらたま』で親しまれている斎藤茂吉。その評論・評伝は夥しい数に昇る。長男の精神科医・斎藤茂太による『茂吉の体臭』、次男の精神科医・作家の北杜夫による四部作『青年茂吉』、『壮年茂吉』、『茂吉彷徨』、『茂吉晩年』。弟子による、山口茂吉『斎藤茂吉』、田中隆尚『茂吉随門』。ほか、中野重治『斎藤茂吉ノオト』、塚本邦雄『茂吉秀歌』など。この度、以前小社より刊行した単行本を、全面的に改稿して集大成した加藤淑子著作集の3冊、『斎藤茂吉と医学』、『山口茂吉』、『斎藤茂吉と十五年戦争』は、これらのあまたある評伝のなかで、ユニークな輝きを放っている。

冒頭引用した『斎藤茂吉と医学』では、精神科医としての茂吉と、短歌の関係を緻密に考察する。クレペリンについては、現代精神医学の創始者として、小社より「精神医学」シリーズを6冊刊行している。古典として揺るぎない評価をいただいており、現在でも読み継がれている著作であるが、当時は最先端の学者として、日本の精神医学の模範となっていたことがリアルに実感できる。第一次世界大戦では敵国であった日本人、茂吉が握手を求めて拒絶されたエピソードほか、精神科医・茂吉の人物像が生き生きと描かれている。著者は、眼科医であった「アララギ」の歌人であり、その経験が本書には活かされており、従来顧みられることの少なかった、歌集『遠遊』『遍歴』の再評価を試みる。

また山口茂吉についての日本で唯一の評伝『山口茂吉――斎藤茂吉の周辺』では、著者の短歌の直接の師であり、『斎藤茂吉全集』を編集し、茂吉との付き合いの深かった弟子の生涯を追う。また『斎藤茂吉の十五年戦争』では、小社刊の『現代史資料』『続・現代史資料』ほかを駆使しながら、研究対象として論じることが難しかった茂吉の戦争詠を、時代状況のなかで詳細に位置付けている。

このような、茂吉の実像に迫った3冊に、自選の歌集『游塵』を合わせて、全4巻にてお届けする。




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