みすず書房

他者の苦しみへの責任

ソーシャル・サファリングを知る

SOCIAL SUFFERING

判型 四六判
頁数 304頁
定価 3,740円 (本体:3,400円)
ISBN 978-4-622-07592-9
Cコード C0036
発行日 2011年3月22日
備考 現在品切
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他者の苦しみへの責任

貧困・難民問題など、社会的につくられる苦しみをグローバルに捉える際、統計の網にかからない実相を捨象するのはあまりにたやすい。数値化の威力ばかりが叫ばれる時代にこそ、「質的な」側面へのアプローチが切実に求められる。
収録の論考は、ハイチにエイズを蔓延させる社会構造(ファーマー論文)、移民が民族と国家を失うプロセス(ダニエル論文)など、社会的につくられる苦しみについての当事者自身による「表現」を掘り起こしつつ、同時にそれをグローバルな視座から位置づけている。「ケヴィン・カーターの写真と同じように「他者の苦しみへの責任」は何らかの形で可視化されなければならない。商品になってしまうことも承知の上で、より強く訴える表現手段を用意しなければならない。この論集もそういう意図から編まれたものだ。」(「解説」より)
特に注目してほしいのは、社会的な苦しみにも「トリアージ」が必要だという、最貧困層の人々の支援を視野に入れたP・ファーマーによる訴えである。本書中でも苦しみに統一的基準を持ち込むことへの懸念を語るクラインマンらの見解との間に緊張が生じており、社会的苦しみをめぐる議論の焦点であることが見てとれる。この問題への定見をもつためにも本書は必読といえるだろう。

目次

序論(アーサー・クラインマン/ヴィーナ・ダス/マーガレット・ロック)

●遠くの苦しみへの接近とメディア●
苦しむ人々・衝撃的な映像——現代における苦しみの文化的流用(アーサー・クラインマン/ジョーン・クラインマン)

●声なき者の表現を掘り起こす/インド・パキスタン●
言語と身体——痛みの表現におけるそれぞれの働き(ヴィーナ・ダス)

●トリアージの必要を問う「極度の」苦しみ/ハイチ●
人々の「苦しみ」と構造的暴力——底辺から見えるもの(ポール・ファーマー)

●医療テクノロジーと人権/日本●
「苦しみ」の転換——北米と日本における死の再構築(マーガレット・ロック)

●移民の苦しみのありか/スリランカ・英国●
悩める国家、疎外される人々(E・ヴァレンタイン・ダニエル)

●抑圧装置の解体●
拷問——非人間的・屈辱的な残虐行為(タラル・アサド)


解説(池澤夏樹)
訳者あとがき
原著の収録論文
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書評情報

釈徹宗
週刊文春2011年4月21日号
堂目卓生(経済学者)
読売新聞2011年5月8日(日)
河合香織(ノンフィクション作家)
週刊図書館2011年6月11日号
小西聖子
毎日新聞2011年5月29日(日)
斎藤貴男(ジャーナリスト)
信濃毎日新聞2011年7月10日(日

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