みすず書房

大山猫の物語

HISTOIRE DE LYNX

判型 四六判
頁数 392頁
定価 5,940円 (本体:5,400円)
ISBN 978-4-622-07912-5
Cコード C1010
発行日 2016年3月10日
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大山猫の物語

〈今日、アメリカ・インディアンの二元論の哲学的・倫理学的な源へとさかのぼっていくのは可能だとわたしは思う。この二元論の原動力は、白人との初めての出会いの際にあからさまに示された、他者へ開かれた心であるように見える。白人のほうではそれと正反対の感情につき動かされていたのではあるが。「新世界」の発見と呼ぶよりは、侵略、そしてそこに住む人々や価値観の破壊と呼ぶのがふさわしそうな出来事を記念する式典が行なわれようとしているいま、そのことを認めるのは敬虔さと心からの後悔の表われとなるにちがいない〉

コロンブスによる「新大陸発見」500周年の前年、1991年に刊行された本書は、主著『神話論理』に連なる「小神話論理」と呼ばれる三部作、『仮面の道』『やきもち焼きの土器つくり』を継ぐ第三冊であり、20世紀最大の思想家のライフワークの文字通り終結をなす書である。「大神話論理」の第一巻がボロロ族の「鳥の巣あさりの神話」から出発していたのに呼応して、本書ではふたたび、ボロロの民族誌への目配せもなされている。著者はいったい何を目指し、どのような問いを投げかけようとしていたのか。
神話研究を構想してからほぼ半世紀におよんだ著者の膨大な仕事は、北アメリカのオオヤマネコ神話を軸に展開する『大山猫の物語』によって、大団円を迎える。

目次

序言

第一部 霧の方へ
第1章 時ならぬ妊娠
第2章 コヨーテ父子
第3章 ツノガイを盗む女たち
第4章 時をさかのぼる神話
第5章 運命を告げる宣告
第6章 シロイワヤギたちへの訪問

第二部 晴れ間
第7章 ミミズクにさらわれた子供
第8章 服飾品、傷
第9章 根の息子
第10章 双子——サケ、クマ、オオカミ
第11章 家庭の気象学
第12章 服飾品、食糧
第13章 月から太陽へ
第14章 イヌと番う女

第三部 風の方へ
第15章 風の捕獲
第16章 インディアンの神話、フランスの民話
第17章 鳥の巣あさりの最後の帰還
第18章 モンテーニュを読み返しながら
第19章 アメリカ・インディアンの二分性イデオロギー

訳者あとがき
原注
文献
索引

刊行にあわせて4点重版

人類学者クロード・レヴィ=ストロースが神話研究を進めた豊かな1950年代、並行して社会組織についても研究が進められていました。その成果としてまとめられた論文のいくつかを収める、構造主義人類学のマニフェストというべき論集『構造人類学』(荒川幾男他訳)。
1977年、国際交流基金の招きでレヴィ=ストロースは初来日します。そのときの講演集『構造・神話・労働』(大橋保夫訳)。

自身を語ることの少なかったレヴィ=ストロースですが、年若い鋭敏な聞き手を得て、貴重な証言にみちているエリボンとの共著『遠近の回想』[増補新版](竹内信夫訳)。

そして、豊饒な神話の森のガイドブック『レヴィ=ストロース『神話論理』の森へ』(渡辺公三・木村秀雄編)は、巻末の主要著作目録(泉克典作成)をこの機に改訂し、祝100歳や追悼特集・没後出版により近年増えた書誌を加えて、日本語で読めるレヴィ=ストロース文献をほぼ網羅する案内としました。
中沢新一/マルセル・エナフ/内堀基光/鈴木一誌/港千尋/安冨歩/池澤夏樹執筆。2005年秋、97歳を目前にしていたレヴィ=ストロースのオリジナル・インタヴュー(パリ、聞き手・渡辺公三)も収めます。
以上4点を、本書の刊行にあわせて重版します。

書評情報

橋爪大三郎(社会学者)
日本経済新聞2016年4月17日(日)
杉田敦(政治学者)
朝日新聞2016年5月15日(日)

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