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2013.10.25トピックス

フランチェスカ・ガイバ 『ニュルンベルク裁判の通訳』

武田珂代子訳

巻末「訳者あとがき」より

武田珂代子

ニュルンベルク裁判における通訳は、同時通訳というほとんど未知の技術を多言語で実施して成功させ、同時通訳が国際的に普及する突破口になったという点で通訳史における金字塔的出来事と言える。それにもかかわらず、ニュルンベルク裁判の通訳を主題とした研究は半世紀近く存在しなかった。本書によって同裁判の通訳の全体像が初めて明らかになり、特に同時通訳採用のいきさつ、通訳者の選抜と訓練、訳出上の問題とその対処法、また国連への同時通訳導入との関係など、通訳研究にとって極めて興味深く重要な側面に光が当てられたという点は意義深い。

原書の刊行後、ニュルンベルク裁判の通訳者が回顧録を刊行したり、インタビューに応じたり、講演をしたりすることで追加的情報がいくらか入手可能になった。日本においても、本書に登場する通訳者ジークフリート・ラムラー氏による講演会が2006年、日本通訳学会の主催で開かれ、その講演記録を含む『ニュルンベルク裁判と同時通訳』(松縄順子監修、エンタイトル出版、2007年)が出版されている。しかし、ニュルンベルク裁判の通訳に焦点をおいた学術書という意味では、刊行後15年たった今も本書が唯一の文献と見なされ、通訳史研究で多くの人が参照する正典のような役割を果たしている。

本書の最大の強みは、ガイバの語学力(英語・フランス語・ドイツ語・イタリア語の運用能力)を生かした幅広い文献調査とニュルンベルク裁判で実際に通訳をした人々との通信を基に提供される情報量の豊かさである。速記録、関係書類、映像記録などを複数言語で参照しただけでなく、時代の生き証人である通訳者たちから当時の様子や裁判に対する私見を引き出したことの功績は大きいだろう。歴史に名を残したナチ指導者や司法関係者の発言やふるまいが生々しく伝わる本書は、通訳研究者のみならず、ドイツ史や戦後史の研究者、また国際司法の関係者にとっても、貴重な資料になるものと考える。

copyright Takeda Kayoko 2013
(訳者のご同意を得て抜粋掲載しています)




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