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2014.12.12トピックス

エーリヒ・ケストナー『ファビアン』

あるモラリストの物語 丘沢静也訳

『エーミールと探偵たち』はじめ、挿絵のワルター・トリヤーとのコンビで発表された痛快でユーモアあふれる作品が世界中の子どもたち、そして「むかし子どもだった」おとなたちを夢中にさせ、日本でも多くのファンをもつケストナー。その大人向けに描かれた唯一の長編小説。

「今さ、30歳で結婚できるやつって、いるか? 失業してるやつもいるし、明日にでも失職するやつもいる。これまで一度も就職したことのないやつもいる。ぼくらの国は、後の世代が生まれてくるってことに、準備できてないんだ」

「昔はね、女が身をまかせると、贈り物のように大切にされた。今はね、お金を払われて、ある日、支払い済みで用済みの商品みたいに、ポイと捨てられる。お金を払うほうが安上がりだ、と男は考えてるでしょう」 「昔、その贈り物は、商品とはまったく別のものだった。今、その贈り物は商品で、しかもタダなんだよね。そんなに安いから、買い手が不信感をもつ。腐ったビジネスにちがいない、と思う。で、たいていは腐ってる。後になって女から請求書を突きつけられるからね。突然、その贈り物の道徳上の値段で払い戻しを迫られる…」 「そう、そうなのよ。そんなふうに考えてるのよね、男の人って」

小説の主人公ヤーコプ・ファビアン、32歳。タバコ会社の広告部勤務、ベルリンのアパートにひとり暮らし。
ワイマール共和国末期、退廃と狂乱の都市ベルリンを、親友ラブーデと徘徊して日を送る、モラルが破綻した時代の「モラリスト」――ファビアンの生活を通して、時代と風俗、そこに生きる男と女の姿を写し取りながら、ひとつの真実を描いた本書は、刊行と同時に大きな反響を呼び起こし、ヘルマン・ヘッセやハンス・ファラダなどの激賞をうけたが、1933年にはそれまでに出版された4冊の詩集とともにナチスの手によって焚書に付され、ドイツ国内での絶版が続いた、という経緯をもつ。

没後40年。近年、本格的な伝記や《原典版ファビアン》とも呼ぶべき『犬どもの前に行く』が刊行されて、シニカルな風刺家にして大胆なモラリストとしてのもうひとつの顔がクローズアップされはじめている。
自伝的モチーフをそなえ、ケストナー自身も特別の思い入れをもっていたという本書を、出版社の要請によって初版から削除された章と、あとがきとして考えられていた「ファビアンと道学者先生たち」「ファビアンと美学者先生たち」、さらに、戦後に新版に寄せて書かれた二種類のまえがきを収めた、初の完全版で贈る。




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