みすず書房

悲劇はシベリアで起きた。ヴェルト『共食いの島』根岸隆夫訳

ニコラ・ヴェルト『共食いの島――スターリンの知られざるグラーグ』根岸隆夫訳

2019.02.12

舞台は西シベリア、北極海にそそぐオビ川の無人島だった。1933年にこのナジノ島で起きた大混乱に現地で対応し、苦戦を強いられた下っ端の官吏は、それをスターリンに直訴した。混乱のあげくに起きた悲劇は、この手紙をきっかけに政府内で露見し、その処理をめぐって党・政治警察がやり取りした記録が残った。

ソ連時代の資料は今、依然として封印されている。しかしゴルバチョフのグラスノスチの時代に、束の間、その一部が公開され、入手可能になった。ナジノ島をめぐる記録は、そのなかから発見されたのだった。

では、当時のシベリアとは、どんなところだったのだろう。
モスクワやレニングラードのあるウラル山脈の西側、つまりヨーロッパ大陸に重点をおくソ連にとって、アジア大陸である山脈の東側、つまりシベリアは、いわば格好の「ゴミ捨て場」(本文、p. 8、他)だったのだ。

「ソ連は地表の6分の1を占め、世界最多の11の標準時のある、途方もない空間だ。なかでもシベリアはその大きな部分を占め、豊かな資源を埋蔵しながら人口は稀薄、長い冬に気温は零下数十度に下がる。帝政ロシアの時代から、そこは反逆者や犯罪者を流刑にする場所だった。シベリアは想像を超える過酷な自然環境と無限の空間からなる鉄格子なき監獄だった」(訳者あとがき)