みすず書房

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『源氏物語、〈あこがれ〉の輝き』

ノーマ・フィールド 斎藤和明・井上英明・和田聖美訳

『天皇の逝く国で』によって、日本に鮮烈なデビューをはたしたノーマ・フィールドの博士論文は、『源氏物語』の研究だった。
もっとさかのぼると、そこには、十代の文学少女がいる。

「この本なしには、私は生きていかれなかった。……シャーロット・ブロンテの『ジェイン・エア』である。
……いくどもいくども読み返した。それも、とばしてお気に入りの場面だけを拾うのではなく、はじめの、あの冬の嵐の日の少女ジェインの受難の件りから、最後のいつ読んでも深い満足感を覚える「読者よ、わたしは彼と結婚した」までを、ごくごく忠実に年に何回か読む思春期をすごした。
……ジェインはまさにこの私だ、と思わせるようにあの小説は迫ってきた。……私が大人になろうとしていたとき、それも、女の子として、世間に喜ばれる資質もなくして大人になろうとしていたときに、勇気と、夢までをも与えてくれたのだ」
(「東京の『ジェイン・エア』」、『祖母のくに』所収、みすず書房、2000)

『源氏物語、〈あこがれ〉の輝き』の魅力は第一に、この文学少女の眼差しが、行間に溢れるほど感じられること、「小説の熱心な読者」であることを手放さずに、学者としての「作品分析」を融合させ、それに成功していることだろう。
とても自然に、著者はヒーローの光源氏ではなく、ヒロインたちに思い入れをしている。彼女たちの側から、この物語を分析している。主要なヒロインもマイナーなヒロインたちも、あたかもこの現代に生きていて、著者と、あこがれや嫉妬や怨念や寂しさを共有しているかのようだ。

思えば、『源氏物語』はずいぶん昔から、たくさんの「わたしの『源氏物語』」を生んできて、いまだに、若い作家たちが挑戦している。なぜだろう。その不思議を、ノーマ・フィールドの「読み」は解いてくれるかもしれない。




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