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M・エクスタインズ『春の祭典』

第一次世界大戦とモダン・エイジの誕生 [新版] 金利光訳

戦争のトラウマ問題にいちはやく着目し、20世紀モダニズム、アヴァンギャルドとドイツ・ファシズムの関係を鋭く抉った圧倒的文化史。1991年に出版され再刊の待ち望まれた邦訳書を、訳文・注・索引を見直し新版としてお届けいたします。

バレエ『春の祭典』における〈死と生成〉


「バレエ『春の祭典』は戦争勃発の前年である1913年5月にパリで初演された。反逆のエネルギーにあふれ、生贄となる処女の死を通して生を祝福するこの作品は、生を求めようとして数百万もの優れた人々を死なせた20世紀をまさしく象徴する。この音楽の作曲者ストラヴィンスキーがはじめこの曲につけようとしたタイトルは〈犠牲〉であった。」
(本書「はじめに」)

「1975年の終わりに初演された〈ストラヴィンスキーの夕べ〉において、ピナ・バウシュはもう一つの最高峰を達成。……もっぱら純粋なエロスの祭として解釈される流行に対抗して、ピナ・バウシュの『春の祭典』は、本来の〈犠牲〉という筋を拠りどころにし、それを死刑宣告される女性の視点から描く。」
(ヨッヘン・シュミット『ピナ・バウシュ 怖がらずに踊ってごらん』谷川道子訳、フィルムアート社、1999年)

昨年6月に他界したコンテンポラリー・ダンスの振付家、ピナ・バウシュ。ダンスと演劇を融合させた、タンツ・テアターという独自の世界を築いた彼女は、レパートリーの一つとして『春の祭典』の振付を行っている。1913年の初演では、伝統的なバレエの形式を無視し、上演中に客席で賛否の怒声が飛び交った、ストラヴィンスキー作曲、ニジンスキー振付の『春の祭典』。それから約60年後、ピナ・バウシュは、「なお伝統の延長線上に立つダンス作品」=『春の祭典』を、「そのジャンルをクライマックスにまで高めたあとで、別れを告げ」(引用は、上記シュミット著)、タンツ・テアターの試みへと足を踏み出す。

本書『春の祭典――第一次世界大戦とモダン・エイジの誕生』は、1913年5月29日、パリのシャンゼリゼ劇場でのバレエ『春の祭典』初演における大混乱の叙述から始まる。その衝撃が意味する文化的・社会的な背景を本書全体の問題提起として掲げ、次に中心テーマである、第一次世界大戦の西部戦線における塹壕戦や新しい兵器がもたらした、兵士の実像とトラウマ問題を一次資料をもとに詳細に描く。そして、大戦後のヨーロッパの絶望と、大西洋単独横断飛行のリンドバーグ、ベストセラー『西部戦線異状なし』のレマルク、そしてヒトラーへの熱狂からナチス崩壊までを追い、文化と戦争との関係を壮大かつ読みごたえのある歴史として提示する。

ピナ・バウシュが亡くなる1カ月前、ヴィム・ヴェンダース監督とのコラボレーションによる3Dダンス映画、『ピナ』の製作が発表され、『春の祭典』も取り上げられる予定とのことであった。訃報の後、一時中断が報じられたが、1カ月後、製作を続行することが決まる。




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