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J・C・ブライトン『もの忘れと認知症』

“ふつうの老化”をおそれるまえに 都甲崇監訳 内門大丈・勝瀬大海・青木直哉訳

わが国は現在、約25年後には全人口の3人に1人が65歳以上になるという、世界的にも未踏の超高齢社会へと向かっている。これまで以上に高齢者に特有のさまざまな疾患が増えていくことが予想されるが、そのなかでも認知症が他の高齢期の病気に比してひときわおそれられる理由は、なによりも周囲の人々とりわけ介護者の負担である。
認知症が進行して重度になれば、介護している人がだれなのかさえわからなくなる。睡眠時間にいたるまで自分の時間を削って、甲斐甲斐しく自分の肉親の面倒をみてきた介護者にとって、それがどれほどつらいことであるか。事実、認知症の親との無理心中は、けっしてまれなケースではないのである。

本書『もの忘れと認知症』は、米国の看護学者が書いた本である。米国もわが国と同じように、急激なスピードで高齢社会へと向かっている。この本ではひと口に「認知症」といってもさまざまな認知症があり、まずはどの認知症なのかを特定すること、そして認知症の種類によるその後の対応の違い、この2点にとくに重点をおいて解説がされている。
では、家族や自分に本書の中で解説されている「認知症」にあてはまるような症状があるときには、私たちはどうすればよいのか? 本書の監訳者で、老年精神医学の専門家である都甲崇氏が、本書の中では述べられていない3つのアドバイスをくれた。

1) まずは専門医の診断を受ける/受けてもらうこと
わが国では、精神科、神経内科、心療内科、老年内科などに認知症を専門とする医師が多い。
ただし気を付けなければいけないのは、上記の診療科でも認知症を専門としない医師もいるため、受診する前に認知症を診てもらえるかどうかを確認すること。わが国の専門医制度の中では、日本認知症学会専門医と日本老年精神医学会専門医が、認知症の専門医と言える。いずれも、学会のホームページから専門医と専門の医療機関を探すことができる。

2) 受診にあたっての注意
認知症では本人にもの忘れの自覚がないことが多く、認知症の検査というと本人が拒否する場合が少なくない。上記の専門医の受診にあたり、「健診」など伝えて病院に連れていくと、スムーズに行くことが多い。その場合には、診察前に、本人には健診と伝えて連れてきたことを担当医に伝えておくとよりスムーズになる。

3) 病院に連れていけない/自分で病院にいけない場合は
どうしても受診を拒否する場合、地域によっては、役所に相談窓口があることがあるので、各地域の役所や地域の包括支援センターに相談するのが第一歩となる。また、本人が独居である場合や、「老老介護」で心配な人がいる場合にも、地域包括支援センターや役所に相談するとよい。これらの機関の職員に家を訪問してもらうことも可能である。

「もの忘れ」を過剰におそれず、また「もの忘れ」を軽んじて手遅れにならないための予備知識として、本書をおすすめしたい。そして、もしも本書を読んで自分や周囲の人に思い当たるところがあれば、まずは専門家を頼っていただきたい。




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