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アリス・ホフマン『ローカル・ガールズ』
北條文緒訳
過去をふり返ってみると、なんでも甘美なものになるようだ。とくに、青春というのは過ぎ去ってみると、なかなかいいものらしい。しかし、ポール・ニザンの殺し文句のように、その渦中にある者にとっては若いということはそれほどいいものではない。
この物語は二人の若い女性が主人公である。舞台はアメリカのフランコーニアという架空の田舎町で、近所に住む二人は大の仲良しである。美人のジルははやばやと妊娠して高校を中退し、ローカル・タウンの住人として落ち着く。もう一人のグレーテルにはこれとは対照的な人生が待っている。両親の離婚と父親の再婚、優秀な兄のドラッグによる破滅、母親の癌など――かなり悲惨な状況であるが、この苦境からいかに脱出するか。これがこの連作短篇集のメイン・テーマである。重たい事件がつづくが、雰囲気は感傷的にならず、ときに思わぬユーモアがひらめき、マジック・リアリズムの手法によって現実世界を超越する。難題をやり過ごす〈コツ〉も教えてくれる。物語はテンポよく展開し、最後まで退屈しない。そして、読者は現代アメリカの精神風景を鮮烈に感じ取ることになる。
訳者は女性たちが集まる生涯学習プログラムの翻訳グループでこの本をテキストに使ったが、読み終わって彼女たちの感想を聞いたところ10代の子には読ませたくないという意見だったという。たしかに、しんどい事件がつづくが、大人はもとより若者にも読んでもらいたい。若い人に無理かどうか? あまりに人生経験が要求されすぎるかどうか? ここはぜひ読者の意見を聞きたいものである。
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