みすず書房

トピックス

ルネ・ストラ『バウムテスト研究』

いかにして統計的解釈にいたるか 阿部惠一郎訳

「樹木画テストは、コッホとストラによって同じ時期に始められたが、その方法は異なる。コッホは英語やスペイン語、ポルトガル語さらには日本語に翻訳されたが、ストラは外国語に翻訳されることなく、フランス語圏だけで評価された。英語や他の言語に翻訳されていたならば、もっと高い評価を受けていたに違いない」

この言葉は、1990年に逝去したストラを悼んで、ポルトガルのある研究者が書いたものである。事実、日本の心理臨床の現場においても、ストラの手法はほとんど用いられてこなかった。

コッホの『バウムテスト』初版が刊行されたのは1949年。同書の邦訳(英語版からの邦訳)は1970年。ストラが本書の原型となる「心理学雑誌」を著したのは1963年である。本書は実に50年近くの時を経て、はじめて邦訳がなされたのである。

本書邦訳にあたっても力を貸してくれたストラの弟子によれば、彼女の生涯はまさしく心理検査の実践であった。そのことは、本書にみられる圧倒的な統計的研究から描画サインの意味へと迫る姿勢にも裏打ちされるだろう。彼女の生涯唯一の単著となった本書は、まさにバウムテスト研究者ルネ・ストラの人生そのものなのである。 ストラ亡き後のフランスのバウムテスト研究について、訳者は次のように書いている。

「21世紀になってからもフランスでは何冊かの「木の描画」に関する本が出版されている。そうした本を読むと必ずストラの名が出てくるのだが、彼女の業績について触れられることは少ない。本書のように徹底した、しかも強迫的なまでに描画サインの意味を追求したものは見当たらず、むしろストラの果実を利用させてもらっているという印象がある」

20世紀のバウムテストの歴史は、間違いなくコッホの手法がその中心にあった。しかしこれからの歴史には、ストラの名も同じように刻まれていくことになるであろう。




その他のトピックス