トピックス
『異文化コミュニケーション学への招待』
鳥飼玖美子・野田研一・平賀正子・小山亘編
本書は、「異文化コミュニケーション学」という研究分野のこれまでの範囲を革新的に拡張し、新たな視点から再構築する試みだ。〈外国語教育から異文化市民の教育へ〉〈ネイチャーライティングから持続可能な開発のための教育学まで〉〈地域言語は国際語になりえるか〉〈ユーモアを訳す〉など、通訳・翻訳の問題から環境学まで、言語文化をめぐる普遍的な問いから人文社会科学としての方法論へと向かうこの研究領域の最新成果を紹介する一冊である。
全編を通して読めば、異文化コミュニケーション学という分野の、瞠目に値する多彩な広がりを体験することが可能だ。そして、通して読むことで、一見脈絡なく茫漠と広がっているような4つの領域(異文化、環境、言語、通訳翻訳)に共通項が浮かび上がってくる。それは各論考において明示的であったり暗黙であったりするが、「コミュニケーション」という概念や問題の探究は、「他者性」すなわち「異質性」とどう対応するかという問題に収斂する。4領域21編の論考に通底するのは、相互作用としてのコミュニケーションが紡ぎ出す異質な他者との関係性の問題である。
異文化コミュニケーション学は発展途上の学問である。これまで主としてアメリカから輸入された学問として進んできた異文化コミュニケーション研究は、今後は、日本独自の展望とヨーロッパや世界の新たな潮流を取り入れ、隣接分野の学知を積極的に吸収し、「持続可能な社会」というグローバルな課題に応える学として展開していくことが希求されている。本書は、現時点での最新の地平を示しつつ、今後の更なる有意義な発展の一助として提起された一書である。
- アンソニー・ピム『翻訳理論の探求』武田珂代子訳はこちら
- ジェレミー・マンデイ『翻訳学入門』鳥飼玖美子監訳はこちら
- フランツ・ポェヒハッカー『通訳学入門』鳥飼玖美子監訳はこちら
- 鳥飼玖美子『通訳者と戦後日米外交』はこちら
- 武田珂代子『東京裁判における通訳』はこちら
- 佐藤=ロスベアグ・ナナ編『トランスレーション・スタディーズ』はこちら
- アントワーヌ・ベルマン『他者という試練』藤田省一訳はこちら
- 宮田昇『翻訳権の戦後史』はこちら
- 宮田昇『新編 戦後翻訳風雲録』はこちら
- 北條文緒『翻訳と異文化』はこちら



