みすず書房

トピックス

レヴィ=ストロース『食卓作法の起源』

『神話論理』第III巻刊行(全5巻)

構造人類学の探究の頂点、20世紀思想の金字塔。クロード・レヴィ=ストロースの主著『神話論理』全5巻(フランス語版原著全4巻)は、III 『食卓作法の起源』まで翻訳刊行が進みました。

〈第 I 巻の表題となった「生のものと火にかけたもの」の対立は料理の不在と存在との対立であった。第 II 巻では、われわれは料理の存在を想定したうえでその周辺を探索した。すなわち料理の手前にある蜜と、料理の向こう側に位置するタバコに関する慣習と信仰である。同じ方向にしたがいつつ、この第 III 巻では料理の輪郭をたどった。すなわち料理の自然の側に位置する消化と、文化の側に位置する調理法から食卓作法までの広がりとである。……食卓作法について言えば、それは調理の仕方に上乗せされた摂取の作法であり、ある意味では二乗された文化的加工とも見なすことができる。〉(『食卓作法の起源』542ページ)

第 I 巻冒頭に置かれたボロロ族「鳥の巣あさり」に呼応して、この第 III 巻の基準神話に選ばれるのは、アマゾン川源流に近いアンデス山脈東斜面のふもとに住むトゥクナ族の、狩人モンマネキの神話です。主人公はカエルや鳥やミミズやインコと次々に結婚しては別れ、物語は際限なく続くかにも見えます。しかし、次々に挿話が付加される通俗連載小説に似ていながら、この物語はなお、明確な感覚的特性の対比によって組み立てられる神話の構造を保持している、とレヴィ=ストロースは考えます。
神話の構造はどのように劣化し、系列の継起する「歴史」に変容するのか。月と太陽がカヌーに乗って旅する神話とともに、探求は舞台を北アメリカに移動し、不均衡とリズム、周期性、そして野生の思考のモラルへと向かいます。

〈食卓作法の起源が、そしてより一般的にいえば、よき作法の起源が、われわれがしめしえたと考えるとおり、世界に対する敬意にあり、また、世界を生きるための知恵が、まさに義務の遵守にあるのだとすれば、神話に内在するモラルは、われわれが宣明するモラルとは対極にあることになる。いずれにせよ、このモラルは、われわれが大いにもてはやした「地獄とは他人のことだ」という表現が、哲学的な命題というよりは、ひとつの文明についての民族誌的な証言にほかならないことを教えている。〉(『食卓作法の起源』587ページ以下)

結びの章のペシミスティックな言明を、20世紀後半の激変をまのあたりにした後の現代にどう読むか、1995-2004年の「国際先住民年」の十年間が、もしかすると先住民社会の人びとにとってもっとも苛酷な破壊と収奪の時代だったかもしれないことは、訳者を代表して書かれた渡辺公三のあとがきに詳しく解説されています。
『神話論理』シリーズ中の白眉を、流麗な翻訳で。神話の森の楽しき逍遙のために、ガイドブックとして編まれた渡辺公三・木村秀雄編『レヴィ=ストロース『神話論理』の森へ』も、どうぞお忘れなくご携行下さい。

■各巻内容

生のものと火を通したもの

神話論理 I
序曲/第一部 主題と変奏/第二部 I 行儀作法についてのソナタ II 短い交響曲/第三部 I 五感のフーガ II オポッサムのカンタータ/第四部 平均律天文学/第五部 三楽章からなる田舎風の交響曲
早水洋太郎訳 8400円

蜜から灰へ

神話論理 II
序/音合わせのために/第一部 乾いたものと湿ったもの/第二部 カエルの祝宴/第三部 八月は四旬節/第四部 暗闇の楽器
早水洋太郎訳 8820円

食卓作法の起源

神話論理 III
序/第一部 バラバラにされた女の謎/第二部 神話から小説へ/第三部 カヌーに乗った月と太陽の旅/第四部 お手本のような少女たち/第五部 オオカミのようにがつがつと/第六部 均衡/第七部 生きる知恵の規則
渡辺公三・榎本譲・福田素子・小林真紀子訳 9030円

裸の人 1・2

神話論理 IV(全2冊)
序/第一部 家族の秘密/第二部 こだまのゲーム/第三部 私生活情景/第四部 田舎暮らしの情景/第五部 苦い知/第六部 源流に遡って/第七部 神話の黎明/終曲
吉田禎吾・木村秀雄他訳 [続刊]

原著第IV巻カバー



その他のトピックス