みすず書房

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井村恒郎『失語症論』/笠原嘉『妄想論』

《精神医学重要文献シリーズ Heritage》

《精神医学重要文献シリーズ Heritage》では、現代精神医学の発展を支えてきた医学者による名著を中心に、人間理解への卓越した視点に基づく著作を編集・刊行していきます。精神医学界の未来を担うべき若き医学徒を読者対象に、今日までの先駆者の営為を残し語り継いでゆくため、時を経てなお魅力を持ち続けるシリーズを目指します。
2010年5月刊行の第3回配本は、井村恒郎『失語症論』、笠原嘉『妄想論』の2冊を刊行いたしました。

『失語症論』では、まさにわが国における失語研究の第一人者による論文を精選・収録しました。 なかでも、著者が日本語に特有の「語義失語」概念を提示した論文「失語――日本語における特性」(1943)は本書の白眉です。この概念は、漢字・仮名の使い分けという特殊な表現様式を持っているため、欧米の失語研究に遅れをとっていた日本の研究を大きく躍進させるものとなりました。 その他、失語研究の歴史から失語の類型まで、失語研究の全体像を見渡せる本に仕上がっています。巻末には京都大学名誉教授・大東祥孝氏による、著者の業績を再考させる「解説」を収録しました。

『妄想論』は、大学病院やクリニックで長く精神科臨床をつづけてきた著者が、1978年に書いた論考を改訂・復刊した本です。 被害妄想、誇大妄想をはじめ、かつて妄想は「正常」と「異常」の境界をめぐる精神医学において、最重要トピックとも呼ぶべきものでした。本書では、ドイツ語圏やフランス語圏での先駆的な研究をはじめ、中井久夫・木村敏・安永浩らわが国を代表する医学者たちが、当時どのように妄想をとらえてきたのかを、圧倒的な量の文献を元に比較考察します。20世紀の精神病理学を知る意味でも、貴重な論考です。 巻末の著者自身による「解説」では、妄想研究のその後、そして今日の精神医学と妄想について再考しています。

《精神医学重要文献シリーズ Heritage》の次回刊行は2010年8月下旬を予定しております。続刊にもご期待ください。



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