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パレスチナ問題を考える
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昨年12月以来、イスラエルはガザ地区への攻撃を推し進めています。空爆、そして地上からの侵攻。結果として閉ざされた狭い地域に住んでいる150万人のパレスチナ人は、日々、どのような思いで暮らしているのでしょう。1月15日現在で、多くの民間人をふくめ、ガザ地区での死者の数は1000人を越えました。数が問題ではありませんが、これは、1947年のイスラエル建国、その翌年にはじまり、その後連綿とつづく「中東戦争」のなかでも最大のものです。私たちはいま、そのような歴史的現場に立ち会っています。
「中東戦争」と書きましたが、今回の事態ははたして「戦争」といえるのか。軍事力をはじめ、双方のあまりの不均衡をみたとき、これはイスラエルによる侵略行為にほかならないのではないか。歴史的にも、政治的にも、報道のあり方を考えるためにも、現状を正しく理解する一途として、小社で刊行している関連書籍をご紹介したいと思います。
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パレスチナ問題に学者として、知識人として、活動家としてつねに関わりつづけたのがエドワード・W・サイードです。タイトルもそのものずばりの『パレスチナ問題』(原書初版1979年、新版1992年)は、パレスチナ問題の起源からシオニズム、バルフォア宣言、イスラエル建国、中東戦争、キャンプ・デーヴィッド会談までの歴史的・思想的考察を丹念に描いた本で、1992年版に付された長大な序文によって、1990年代はじめまでの動向も加えました。A5判450頁ほどの大著ですが、現在を知るための最も信頼に足る基本文献です。
同じくサイード『オスロからイラクへ――戦争とプロパガンダ2000-2003』は、『パレスチナ問題』を継ぐかたちで、第二次インティファーダ勃発とオスロ体制の崩壊から、9・11をへて、イラク戦争、中東和平のための「ロードマップ」までを追ったものです。これは『パレスチナ問題』とはちがい、主としてカイロで発行されている新聞『アル=アフラーム』紙にほぼ毎週、リアルタイムで書かれたもので、サイードはこの連載を病をおして書きつづけながら、惜しくも2003年9月に亡くなりました。イスラエルがガザ地区に何度も侵攻していることも、本書を読めばよくわかります。
さらにサイードの考察は、中東問題の本質や現場へのまなざしにとどまりません。それらを欧米(およびそれらに基づいた日本など)のメディアがいかに歪んだかたちで報道してきたか、に注目します。『イスラム報道』[増補版]は、メディアに現われるフィクションとしてのイスラムのあり方を問う、ユニークかつ先駆的なメディア批判の本で、イラク戦争時のアメリカ・メディアの報道のみならず、ここ数週間のテレビを中心とする日本メディアの報道をみていても、サイードの指摘はますます重要になってきているといわざるをえません。
一昨年に急逝された映画監督佐藤真の渾身のロードムービーを本のかたちにした『エドワード・サイード OUT OF PLACE』は、サイードの活動の軌跡をアメリカ、パレスチナ、イスラエル、エジプトなどに追いながら、多くの関係者へのインタビューのかたちで構成されています。イスラエル人もふくむ多角的な視点は、問題のあり方をよりリアルに伝えています。
イスラエル内部からパレスチナ問題を考えたものとして、エルサレム在住の作家デイヴィッド・グロスマンの『死を生きながら――イスラエル1993-2003』があります。挫けそうになりながらも希望を失わない41の現場報告は、かの地で起こっている現実を目の当たりにさせてくれます。サイードの著作と並行して読むと、「パレスチナ問題」はより立体的に浮かび上がってくるのではないでしょうか。
最新刊、岡真理『アラブ、祈りとしての文学』ともども、いまパレスチナの地で起こっていることを自分の問題としてとらえるためにも、この機会に上記の著書をぜひご購読いただければ幸いです。