みすず書房

レネー・C・フォックス『国境なき医師団』

終わりなき挑戦、希望への意志 坂川雅子訳

2016.01.12

国境なき医師団は、アフリカからロシアまで、戦場や震災地、スラムに赴き、エイズ、結核、マラリアなど様々な病気と闘っています。その熱意に満ちた行動はどのような信念に基づくのでしょうか。
この本では、人道支援の境界や任務遂行に伴うリスクにどう対処しているかなど、理念と活動、組織の詳細が描かれています。また誕生から現在までの歴史も解説、米国を代表する医療社会学者レネー・C・フォックスによる決定版と言えるでしょう。
いつどこで介入すべきか? 人員、物資、資源の配分の仕方は? 長期プロジェクトと短期緊急の判断はどう区別しているのか? 個人への対応と共同体への支援のバランスは? など、活動に参与した体験をふまえて書かれた力作です。

「訳者あとがき」より

今日もどこかで争いが起こり、傷ついている人々がいる。紛争やテロが頻発している世界で、家を追われ、生命の危険にさらされ、怪我をしても手当てを受けられず、病気になっても治療をうけられない多くの人々……。私たちは、そういう人たちの存在を知ってはいるが、たいていの場合、見てみぬふりをしている。
「国境なき医師団」は、そのような、本当に医療を必要としている人々に医療を届けるために、世界各地で日夜活動を続けている。その活動には、感染の危険や、武力紛争の犠牲になる危険、拉致される危険などが、常につきまとう。彼らはそういった危険を冒して、現地に赴いて行くのである。
(中略)
自分が行かなければ変えられない世界がある。そして、自分が行けば、その世界を変えられる。だから彼らは、先の見えない困難な状況のなかでも、希望を失わない。(中略)彼らの希望は、世界の希望なのだ。彼らはそれだけの責任を背負って、そこにいるのである。(中略)国境なき医師団がノーベル平和賞を受賞したときのスピーチに、「人道支援とは、尋常ではない地域に『尋常な空間』を築くこと」とあった。戦争をとめることはできなくても、そこにささやかな「尋常な空間」を作り出し、そのなかに弱者を助け入れる。そういう「平和」の体現方法を、そして、そのために身を粉にして働く彼らの姿を、私たちは、けっして忘れてはならない。

坂川雅子
copyright Sakagawa Masako 2016
* 筆者の了解を得て、一部字句を変更させていただきました。(編集部)