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E・フッサール『イデーン』 III

渡辺二郎・千田義光訳 [全巻完結]

『イデーン』 Iが発表されてから10年後、三木清は羽仁五郎に宛ててこう書く。

「ハイデッカーはフッサールのフェノメノロギーに残っている自然主義の傾向を離れて精神科学のフェノメノロギーをたてようとしているが、彼がこの方面でどれほど深く行っているかは別として、とにかく目論見は面白い。フッサールの『イデーン』よりも『論理学研究』の方を重く視る彼の考えも面白い。ハイデッガーはディルタイを尊敬し、私にもディルタイを根本的に勉強するように勧めている」
(大正12年12月9日付 羽仁五郎あて書簡)

今日から見れば、三木のいうフッサール現象学の「自然主義の傾向」こそが、現象学を現実につなぎとめる確かな碇になっているようにも思える。

大著の完結となるこの第III巻では、「自然的思考から遠く離れた」現象学=「厳密な学」が、物理学や心理学といった他の諸学問にたいしてもつ独自の超越論的な位置づけが解明される。

「物理的‐自然科学的方法と心理学的方法とが並行的に進行しうるのか、また、どれほどまで、両者は根本的に異なったものであらざるをえないのか、といったことが、洞察にあふれた理解へと持ち来たらされることになるのである」
(本文より)

本書はフッサール没後に発表されたにもかかわらず、第 I 巻執筆後さまざまに手を加えられた第 II 巻とは異なり、第 I 巻執筆時の構想をほぼ忠実に反映している。現象学の基本的特徴を余すところなく照らし出した本巻で、30年にわたる訳業は完結する。




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