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『現代フロイト読本』
西園昌久監修/北山修編集代表 [全2巻完結]
第1巻(1895-1916)につづき第2巻で取り上げ、論じられるのは、1916年から亡くなるまで、さらに死後に出版された後期フロイトの論文。巻頭の『精神分析入門』からは、精神分析が国際的な広がりを帯び、学問的な地位を確実なものにしつつある実感と治療者として意欲を充実させたフロイトの姿が浮かび上がってくる――
- 「分析にとって必要な報告が得られるのは、患者と医師との間に特別な感情の結びつきが成立した時にかぎるのです」(『精神分析入門』)
これまでの業績に立ち止まらず、理論の修正・発展にも精力的に向い、心の成り立ちを意識・前意識・無意識でとらえた初期理論、いわゆる「局所論」と並置させるものとして、心の動きの方に注目した自我・超自我・エスによるメカニズム「構造論」のモデルを提示する――
- 「自我にとって生きるということは愛されているということ、エスの代表として現われる超自我によって愛されるということと同じ意味である」(『自我とエス』)
各地での講演会、著作執筆、理解者たちと交わす大量の手紙…過密スケジュールではあるが気力に充ちた毎日に、死が蠢き始める。1920年、弟子の一人タウスクが自殺、支援者であったフロイントが癌で突然世を去り、その5日後、娘のゾフィーが肺炎で死亡。1923年にはゾフィーの忘れ形見・最愛の孫ハイネレが高熱のため病死、また自身も口蓋癌に冒されていることが発覚する――
- 「われわれは次のようにしか言いようがない。すなわち、あらゆる生命の目標は死であり、翻って言うなら、無生命が生命あるものより先に存在していた、と」(『快原理の彼岸』)
そして、対象喪失、死の本能の理論の深化へと突き進む………。
フロイトにより簡潔で言葉の創意を活用したタイトルがつけられ、巧みな言葉遣いによりつづられた著作・論文のひとつひとつを年代順にたどっていくと、人生という運動のなかで理論が生み落とされてゆくさま、フロイトの人生・人柄を強く意識するようになる。
『ヒステリー研究』から『防衛過程における自我の分裂』まで、フロイトの重要な著作をすべて読むことは果たせないとして、その論文・理論と長年向き合ってきた筆者たちによる解説を、背景をまじえ年代順に追うことで、図らずもフロイトの人の魅力が伝わるものになった。そこに、ほかでもない「精神分析家」が「フロイトを読む」ことの魅力と醍醐味がある。