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戸谷由麻『東京裁判』と関連書

ファン・プールへースト『東京裁判とオランダ』/武田珂代子『東京裁判における通訳』[12月刊]

11月12日は、極東国際軍事裁判(東京裁判)の判決読み上げから60年目。

戸谷由麻『東京裁判――第二次大戦後の法と正義の追求』(2008年8月刊)はすでに版を重ね、書店のウェブページでも取り上げられ、反響が大きい。最大の特色は、裁判が「勝者の裁き」だったことは認めながらも、新しい観点を打ち出したことだ。あの判決が今では、国際人道法の形成・発展に貢献している事実に、私たちの目を開かせてくれる。

中島岳志氏(『パール判事』の著者)は次のように書評された。「待ちに待った本格的な東京裁判論が登場した。……裁判を立体的に捉えようとする意欲作……世界各地の一次史料にあたり、これまでの定説に大胆に切り込んでいる。……今後の東京裁判論争の必読文献になるとともに、論争の発火点にもなるだろう」(「東京新聞」10月5日)。

著者はさらに、東京裁判研究の歴史にも十分な頁を割いている。なかでも画期的な展開は1980年代に、立教大学の粟屋憲太郎氏を中核とする研究によって始まったことがわかる。粟屋氏は各国の史料を精力的に発掘、選別、出版して、国内ばかりでなく英語圏の読者にも広く提供し、日米の研究者による議論の指導的な役割を果たした。とくに注目されるのは、東京裁判の政治的利害(とくにアメリカの)を明らかにし、その後の研究の方向を決定づけたことだろう。

それから四半世紀、今回の戸谷の本は、研究史に新たな一頁を加えたことになる。

関連書もご紹介しよう。

まず、研究史でかならず取り上げられるのは、かつて雑誌「みすず」誌上で戦わされた、家永三郎とリチャード・マイニアの論争。家永の「十五年戦争とパール判決書」(1967年7月号)に端を発し、パル反対意見書の妥当性をめぐって1970年代に展開された有名な論争だ。

ファン・プールへースト『東京裁判とオランダ』(水島治郎・塚原東吾訳、粟屋憲太郎解説、1997)は、「平和に対する罪」について独自の判断をもっていた判事レーリンクが、本国政府の意向と調整・妥協をせまられた経緯や、インドネシア(旧オランダ領東インド)に関わった日本人戦犯の裁判、そして戦後の補償問題にいたるまで全容を語った貴重な一冊。

武田珂代子『東京裁判における通訳』は、12月はじめに刊行の予定。東京裁判では、「通訳」は特異な三層構造になっていた。まず日本人の通訳者が通訳し、これを日系二世アメリカ人のモニターがチェック、さらに、米軍将校が言語裁定官として「裁定」。通訳現場のディテールを本格的にあつかった研究書はこれまで皆無で、この重要なプロセスの詳細が、今回はじめて明らかになる。乞御期待。




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