トピックス
『ゴースト・ストーリー傑作選』
英米女性作家8短篇 川本静子・佐藤宏子編訳
本書は英米女性作家によるゴースト・ストーリー8編を訳し下ろした名篇アンソロジー。19世紀から20世紀にかけて、イギリスおよびアメリカでは数多くゴースト・ストーリーが書かれたそうです。
背景には、この時期両国で多くの週刊誌、月刊誌が刊行されたこと、とくにイギリスでは、雑誌のクリスマス号に多くの幽霊物語が掲載され、読者の獲得に寄与したと考えられています。この時期に書かれたゴースト・ストーリーの七割が女性によるものだったという研究もあり、その理由について、本書でイギリス編を担当した川本静子先生は次のように分析します。
- 「これは、ゴースト・ストーリーの分野には女性作家ならではの誘因があったからのように思われる。それは、彼女たちがゴースト・ストーリーの世界に、自分たちを取り囲む社会的・文化的状況から必然的に育まれた夢や空想、あるいは恨みや怨念など、女の意識の底にあるものをドラマタイズする『新しい現実』の場を見出し得たということだ。言い換えれば、ゴースト・ストーリーはそうした新しい『小説世界』の門戸を女性作家の前に開いたのである」(訳者あとがき)
ヴァラエティにとんだ8つの短篇をぜひお愉しみいただけたらと思います。
担当編集の個人的なおすすめは、ヴィクトリア朝の人気作家ギャスケル夫人がディケンズにすすめられて書いたという『老いた子守り女の話』(イギリス、1852年)と、アメリカの重要な地方色作家メアリ・ウィルキンズ・フリーマンによるピューリタンの末裔たちの幽霊物語『ルエラ・ミラー』(アメリカ、1902年)。いずれも語り手である老女の身振り手振りまでもが伝わってくるかのような語り口調。「英米おばあちゃん一人語り対決!」と銘打ちたい作品です。
- エレイン・ショウォールター『姉妹の選択』佐藤宏子訳はこちら
- エレイン・ショウォールター『性のアナーキー』冨山・永富他訳はこちら
- 川本静子『〈新しい女たち〉の世紀末』はこちら
- 川本静子『ガヴァネス――ヴィクトリア時代の〈余った女〉たち』はこちら
- ヴァージニア・ウルフ『病むことについて』川本静子編訳はこちら
- ヴァージニア・ウルフ『女性にとっての職業』出淵・川本監訳はこちら
- 北條文緒『ブルームズベリーふたたび』はこちら

