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『シモーヌ・ヴェイユ選集』 I

初期論集:哲学修業 冨原眞弓訳 [全3巻]

「地表に蔓延する不幸」を考え抜いたひと――1943年に34歳で世を去ったシモーヌ・ヴェイユ。日本では1960年代より、人と思想の紹介がはじまりました。

ヴェイユは生前に一冊の著作もかたちにすることはありませんでした。フランスにおいて、死の直前まで日々の思索を書きつけたノート十数冊が『重力と恩寵』のタイトルのもとにまとめられ、世に出たのが1947年。以後、ヴェイユの思想の重要性が理解されるにつれて、『神を待ちのぞむ』『根をもつこと』『自由と社会的抑圧』をはじめとする主著のほか、書簡や講義録などもつぎつぎに出版され、現在は、フランスで20年以上の年月をかけ、全集の編纂が進行中です。

そのシモーヌ・ヴェイユの生涯を通じて深化・熟成された思索のプロセスを見わたす日本オリジナル選集全三巻の刊行が、今冬、みすず書房よりスタートしました。第I巻には、哲学修業の時代ともいえる若き日の論考を収めます。

16歳で入学した高等中学アンリ四世校の哲学準備級で、ヴェイユは師アランと出会います。アランの『プロポ』は日本でも多くの愛読者をもち、読み継がれていますが、そのアランのクラスで、学生たちは膨大な読書と、思考の修練たる文章修業を積みかさねる日々を送りました。ヴェイユもおどろくべき貪欲さをもって、尊敬する師の思考法、哲学にとりくむ姿勢を、まさに工房における徒弟修業の基本である模倣をつうじて獲得してゆきます。哲学と政治へひとしなみに向けられる情熱。プラトン、デカルト、カントへの愛。バルザックとスタンダールへの傾倒……

第I巻に収録されたのは、授業に提出した自由作文に始まり、思考と事物、労働と権利、時間についての論考、文学論など、〈思考の鍛冶場〉で精錬された全24篇。若さに似合わぬ思考の強靱さと強固な意志、そして文体の純粋さと構成の緻密さをあますところなく示した論考のかずかず――待望の初邦訳。




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