2017.01.26
言葉のムーサ(詩歌女神)的な始原の経験へ。アガンベンの新著
G・アガンベン『哲学とはなにか』 上村忠男訳
クリストファー・クラーク『夢遊病者たち――第一次世界大戦はいかにして始まったか』 小原淳訳 [全2巻]
2017.01.26
史上初の総力戦、第一次世界大戦はどのように始まったのか。誰も戦争が起こるとは思わず、戦争が始まってもじきに収束すると予想され、にもかかわらず世界戦争へと展開し、大量の死者を出し、第二次世界大戦への道をつくった。この戦争勃発の謎を解きあかし、第一次世界大戦100年を期に刊行された本のなかでも異例の反響を呼んだのが本書だ。
解きあかしたといっても、原因をひとつに定めたわけではない。「why」ではなく「how」に焦点を絞り、様々な政治的アクターが戦争への連鎖をつくった過程を見事にあぶりだしているのが、『夢遊病者たち』の特色だ。それは、「戦争を引き起こした決定を確定しようとし、その背後にある理由づけや感情を理解しようとして行われる、諸事件をめぐる旅である」(本書より)。
この歴史の見方は、一読者として読んだときにたいへん納得するものがあった。「実際には、1914年7月は、1980年代においてほどにはこんにちの我々から隔たっていない――そして理解し難くはない――とさえ言えるかもしれない」(本書より)。ポスト冷戦期の今だからこそ、第一次世界大戦へと向かう世界の動きが体感されるのではないか。
「意思決定者たちは、注意深く計画的に、一歩また一歩と危機に向かって歩んでいった」という言葉は、今の言葉として響く。じっさい、英語圏ではギリシャ危機やイギリスのEU離脱決定の折に「The Sleepwalkers」という本書のタイトルを引いた記事がみられた。
政治的アクターが歴史を動かすということは、逆に言うと、それら個々の動きには隙間があるということだ。こうした歴史の隙間は、戦争がイデオロギーの避けられない帰結ではなく、政策決定者や一般市民の個々の行動のなかに、戦争の可能性も戦争回避の可能性もあったことを示しているように思う。ひとつの決定が世界に連鎖していく、グローバル化した現在だからこそ、本書の歴史観はとても示唆的だ。
2017.01.26
G・アガンベン『哲学とはなにか』 上村忠男訳
2017.01.13
ジャクリーヌ・マンク編 後藤新治他訳 パナソニック 汐留ミュージアム監修