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小池昌代『文字の導火線』

小池昌代さんの書評を読むと、詩人は声の媒介者だと、あらためて思う。
本のなかで生きる人々の声を、その声たちを作り出した作者の声を、さらには、本の向う側にある、声なき声を聞き取り、伝達してくれるのだ。そして私たちに、本を読むことは、耳をすませて声を聞くことなのだと、思い起こさせてくれる。

『文字の導火線』は、小池さんが2006年から約5年にわたって、新聞、雑誌等に発表した書評や作家にまつわる文章から、98編を収録する、本をめぐる本。あとがきによると、「読んでみてと言われて読んでみた本もあれば、自らすすんで取りあげた本もあります。興奮したものもあれば、不満を持った本も」とある。(蛇足ながら、新聞や雑誌の書評欄は、各紙誌の編集方針によって、評者自身が本を選ぶ媒体と、記者や編集者が本を選んで、評者に原稿を発注する媒体の、主にふたつがあります)。本書におさめられた98編を読むと、上手くいったお見合いみたいに、人にすすめられて読んでみて、思いがけず相性が合ったんだな、と思う文章に出会うことがあり、書評業界?にも腕のいい仲人がいるな、とうれしくなってしまう。

本のなかにひそむ「声」の話に戻ると、できあがった本書を読みながら、あらためてたくさんの声を聞くことができたのだけれど、なかでも、私に強く強く響いたのは、故佐野洋子さんの声だった。その声は、本書のなかでももっとも短い、400字ほどの原稿「佐野洋子さんは怖い文章家だった」(初出は「フィガロ」2011年2月号)から聞こえてきた。タイトルから分かるとおり、佐野さんが亡くなられた後に書かれたものだ。この文章を読むと、月並みな言い方になってしまうけれど、人は死んだ後も、何かによって(佐野さんは作家だから、この場合は本)生きるのだ、と思った。

最後に、本書を手にとってくださる方へ、小池さんからの伝言です。
「この本につきあってくださった方が、わたしの感想に賛成したり反対したり、にぎやかに読んでくだされば、送り出す身として、たいへんうれしいことです」(あとがきより)

ひとりでも多くの方のもとに届きますように。




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