みすず書房

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『再び「青年期」について』

笠原嘉臨床論集 [20日刊]

「紛争初期、学部を超えた教員の合同委員会がよく開かれ、ああでもない、こうでもないと議論が交わされた。あるとき工学部の元気のよい教授が立って、こういうときに役に立つ青年心理学はないのか、と文系の委員に詰め寄るのをみて、私も(文系ではないが)多少責任があると思った。『青年期』を書いた底にはそういう動機があった」(本書「まえがき」より)

本書を構成しているのは、著者が京都大学の保健管理センターで学生相談を行っていた1968-72年の5年間の臨床経験を基に書かれた論文である。68年にはパリの五月革命があり、わが国でも大学と学生のあいだに異様な緊張が流れた。著者を青年期精神医学の研究に向かわしめたのも、この未曽有の運動が関係していると本書のなかで告白されている。

77年に著者は『青年期――精神病理学から』(中公新書)という小著を著した。その冒頭には、同書における考察の特色を以下のように表現している。

「精神「病理」像の考察から、ひるがえって「正常」とは何かを問うという手法を用いた点。病理法とよんでおきましょう。正常からなにがしかを取り去った欠如態として病理像を見るのではなく、病理像の中にいわゆる正常像においては覆われて見えないものの顕われを見ようとします。現代のように規範自体が動揺しがちな時代には、この方法にも相当の意義がみとめられてよいのではないでしょうか」
(『青年期』より引用)

いわば著者は、「ふつうの青年」とはいったい何かを問うていた。それはのちに著されていく論文にも常に通底している。「ふつうの青年」とは何か、「ふつうの成長」とは何か。保健管理センターの一室からみた青年たちの姿に、著者はそうした「正常」とされてきたものの揺らぎを感じていたのである。
『青年期』の刊行から40年以上が経過した今日、クリニックで著者の目の前に現れる「青年」は変わったか。




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